【ガイドライン②】腰痛に対する理学療法介入

腰痛

ガイドラインでは、介入方法を網羅的には検討していません。

RCT(ランダム化比較対照試験:質の高い研究)やシステマティックレビューで焦点を当てられた理学療法介入を取り上げています。

早期の理学療法介入は、急性腰痛症から慢性化するリスクを軽減させると考えられています。

腰痛が慢性化する前に、なるべく早い段階で医療機関を受診した方が良いということですね。

Lintonらの研究では、骨格筋の痛みに対して早急に理学療法介入を行う群と、遅れて治療を受けた群に分類し、早急に理学療法介入を行った群で慢性痛の発生率が有意に低下したことを報告しています。

早急に理学療法介入を行った群では2%、治療が遅れた群では15%の人が慢性的な症状を訴えていたとのことです。

参考文献

Delitto, A., George, S. Z., Van Dillen, L., Whitman, J. M., Sowa, G., Shekelle, P., … & Werneke, M. (2012). Low back pain: clinical practice guidelines linked to the International Classification of Functioning, Disability, and Health from the Orthopaedic Section of the American Physical Therapy Association. Journal of orthopaedic & sports physical therapy42(4), A1-A57.

腰痛の治療に関する臨床実践ガイドラインがJOSPTという雑誌の2012年4月号に掲載されました。

このガイドラインでは、エビデンスに基づいて腰痛を治療する方法が記載されています。

研究のエビデンスレベル

Ⅰがエビデンスレベルが高く、Ⅴでは高いエビデンスレベルがあるとは言えない、ということですね。

治療の推奨グレード

Aは、現段階でやったほうが良いと言える治療だと思います。

D~Fでは、やらない方がいい、というわけではありません。

現時点で確実なエビデンスがあるとは言えないので、その治療を行う時には患者個人の特性に合わせて適応していく必要があると思います。

推奨グレードA:マニュアルセラピー(徒手療法)

エビデンスレベルⅠ:スラスト法やモビライゼーションは、急性期、亜急性期、慢性期によく用いられる治療法です。

スラスト法とは、以下の写真のように、いわゆる腰をパキっとする手技のことです。

最近よく見る頸部のスラスト法は、頸動脈を傷つける恐れがあることから、厚生労働省で禁止するべきだと言われています。

Fritz, J. M., Childs, J. D., & Flynn, T. W. (2005). Pragmatic application of a clinical prediction rule in primary care to identify patients with low back pain with a good prognosis following a brief spinal manipulation intervention. BMC family practice6, 1-8.

エビデンスレベルⅡ:腰椎に対するスラストマニピュレーション、活動性を保つためのアドバイス、モビリティエクササイズは、劇的に変化する可能性がある

→適応:Oswestry Disability Indexのスコアが50%以上減少した場合に、5つの変数が早期治療の成功の予測因子

  • 症状の持続時間が16日以内
  • 膝から下に症状がない
  • 腰椎の可動性低下
  • 片方/両方の股関節の内旋角度が35°以上
  • FABQ-Wスコアが19点未満

4つ以上の予測因子が当てはまる場合、スラストマニピュレーションの成功率は45~95%と言われています。

エビデンスレベルⅠ

  • 施術の時期が疼痛発生時から16日以内
  • 膝から下に症状がないこと

この2つの要素がある場合、脊柱のスラストマニピュレーターによって疼痛が改善する可能性があります。

Childらの研究では、マニピュレーションと運動を行った患者は、運動のみを行った患者と比較して障害悪化のリスクが少ないことが示されています。

エビデンスレベルⅢ、Ⅳの研究では、腰部脊柱管狭窄症の症例でスラスト法を推奨しています。

マニュアルセラピー 結論

急性腰痛、非特異的腰痛の痛みを軽減するために、スラスト法を用いた徒手療法の利用を検討すべきとされており、推奨グレードはAとされています。

腰痛患者に対するスラスト法は、治療法として推奨されているものということですね。

筆者の考えとしては、スラスト法の実施に加えて、患者さん自身で行うようなストレッチを指導するが良いのではないかと思います。

推奨グレードA:体幹の筋力、持久力エクササイズ

体幹の筋力や筋持久力を向上させるエクササイズは、亜急性期や慢性期において腰痛を減少させる可能性があり、治療に組み込む必要性があると記載されています。

Haydenらの研究では、亜急性期、慢性期では運動療法は有効とされていますが、急性期では運動療法による効果はみられなかったという結果がでています。

推奨グレードA:中心化(centralization)

中心化(centralization)とは、異常な姿勢を正常に戻そう、という考え方のことです。

例えば、反り腰の人が腰を反って痛い場合に、身体を丸めるような運動やトレーニングを行うことで、正しい姿勢に導くという考え方です。

逆に、腰が丸まって猫背の人に対しては、腰を反るようなトレーニングを行うことで正しい姿勢を作ります。

側弯がある場合も同様です。

Mckenzie(マッケンジー)療法という施術法がこのcentralizationの考え方を用いたトレーニングです。

下の写真はマッケンジー法の一例です。

グレードA:下肢痛を伴う急性腰痛患者では、中心化を促進する反復運動、エクササイズを検討するべきである

急性、亜急性、慢性期で可動性が低下している患者に対して、特定の方向へ可動性を改善して症状を軽減するために、反復するエクササイズを使用することを検討するべきであるということが述べられていました。

推奨グレードC:屈曲運動

腰椎の屈曲をベースとした体操であるWilliams体操が有名ですが、これは腰部脊柱管狭窄症の治療とされてきました。

屈曲運動は、理論上、脊柱管や椎間孔の断面積が大きくなるため、神経根の圧迫を緩和できる可能性があると指摘されていました。

Whitmanらは、腰部脊柱管狭窄症の患者58人を、手技療法群と屈曲運動群に分類しています。

6週間の介入によって、手技療法群では62%の人が良好な経過を示し、屈曲運動群では41%が良好な経過を示しています。

あくまで私の意見ですが、腰部脊柱管狭窄症を発症される方は高齢者の方が多いので、椎間板ヘルニアも合併しているのではないかと思います。なので、前屈運動によってヘルニアが助長される可能性は念頭に置く必要がありますね。

屈曲運動の結論

グレードC:放散痛を伴う慢性腰痛を持つ高齢患者の痛みを軽減するために、屈曲運動と手技療法、トレーニング、神経モビライゼーションなどの手技を組み合わせることが重要です。

推奨グレードはCなので、適応を見極めて実施する必要がありそうですね。

推奨グレードC:神経モビライゼーション(nerve mobilization)

  • 亜急性期、慢性期の腰痛、放散痛のある患者に対して、神経モビライゼーションの活用を検討する必要がある

推奨グレードD:牽引(traction)

腰椎の牽引は、相反するエビデンスがあります。

効果があるとする研究もあれば、効果がないとする研究もある、ということですね。

その場では良くなっても、日常生活で再発するリスクが高いのかもしれませんね。

神経根の圧迫があり、症状が末梢にある、またはcrossed SLRが陽性の患者では、腰椎牽引が有効である可能性があります。

一方で、急性、亜急性期で神経症状がない腰椎患者や慢性腰痛患者の症状の軽減には、腰椎牽引は効果が見られないようです。

推奨グレードB:患者教育、カウンセリング

腰痛についての恐怖を増大させるような患者教育やカウンセリングはするべきではないとのことです。

長期の安静を促す教育やカウンセリング、患者の特定の原因について、詳細な病態の説明は行うべきではないとのことです。

では、どのような教育/カウンセリングが良いのでしょうか。

  • 人間の脊椎の解剖学的な強度の理解
  • 痛覚を説明する神経科学
  • 腰痛の予後が全体的に良好であること
  • 恐怖感や破局的思考を減少させる
  • 痛みを感じていても、早期に通常または職業活動を再開する
  • 痛みの緩和だけでなく、活動レベルの向上を進める

推奨グレードA:漸進的な持久運動とフィットネス活動

慢性腰痛患者には中強度から高強度の運動が推奨されています。

以上、参考になれば嬉しいです。

色んな治療法がある中で、まず医療機関を受診して、医師の診断を受けることが重要です。

そのうえで、今回紹介したような治療を患者さん個人に合わせて適応していく必要があります。

現在腰痛をお持ちで医療機関に通院されている方は、「こんな治療はどうですか?」など、提案することもできるかもしれません。

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