臨床ノート

アキレス腱断裂術後のリハビリテーション|保護期から競技復帰まで、時期別の進め方と次へ進む基準

アキレス腱断裂術後のリハビリを、保護期・訓練前期・訓練後期・復帰期の4つに分けて整理しました。各期のメニューと次へ進む基準(片脚ヒールレイズ、底屈筋力MMT5など)、腱の延長と再断裂を防ぐリスク管理、テニス選手を想定した復帰期のドリルまで、文献をもとにまとめています。

アキレス腱断裂の術後リハビリを、保護期から競技復帰まで、1本で通して整理します。

各期で何を行い、何ができたら次へ進むか。そして、腱の延長と再断裂をどう防ぐか。この2つを軸にまとめました。後半の復帰期は、テニス選手を想定した例で具体的に書いています。

対象読者: 理学療法士・アスレティックトレーナーなど、アキレス腱断裂の術後リハビリに携わる専門職 注意事項: 時期の目安は、術式や施設の方針で大きく変わります。実際の進め方は、主治医の指示と、その時点の評価にもとづいて決めてください。

2023年に2回に分けて書いた記事(①保護期〜訓練前期、②訓練後期〜復帰期)を、1本にまとめ直しました。


全体の流れ

期時期の目安主な内容次へ進む目安
保護期術後〜装具除去(6〜8週)ギプス・装具、松葉杖、足趾と足関節の自動運動、等尺性の筋力訓練、患部外トレーニング全荷重の許可
訓練前期〜術後3か月全荷重歩行、可動域訓練(背屈は控えめ)、カーフレイズ、バランス、スクワット、ジョギング片脚ヒールレイズができる。可動域が正常で、症状がない
訓練後期術後3〜4か月底屈筋力の強化、ジョギング→ランニング、ステップ、カッティング、ジャンプ底屈筋力MMT5、片脚ヒールレイズ20回以上でランニングとジャンプへ
復帰期術後4〜6か月競技に近い動き、リアクション、ボールを使った練習、ミニゲームカッティングへの恐怖がない。スプリントと100%のアジリティができる

時期はあくまで目安です。たとえば、強固な縫合術のあと早期から荷重と可動域訓練を始める方法では、術後2〜3週で全荷重、2か月で両脚ヒールレイズ、3か月で片脚ヒールレイズを目標とし、4〜5か月で競技特異的なトレーニングを入れて完全復帰を目指す、という流れが紹介されています(寺本 2019)。

月数より、次へ進む基準を満たしているかで判断してください。


まず押さえておく数字

誰が、どんな場面で切るか

  • 米国のデータでは、10万人年あたり2.1件。男性は女性の3.5倍で、約8割がスポーツ中の受傷でした(寺本 2019)
  • 日本では、球技とラケット競技に多いと報告されています(同上)
  • 受傷しやすいのは、踏み込み・ダッシュ・ジャンプで下腿三頭筋が急に収縮したときや、着地で足首が急に強く背屈したときです。前に踏み出したときの後ろ足、いったん後ろへ下がってから前へ出るとき、といった場面がよく挙げられます

危険因子

  • 男性であること(上記)
  • キノロン系抗菌薬の使用。英国の大規模データでは、使用中の人でアキレス腱断裂のリスクが約4.3倍で、経口ステロイドを併用している高齢者で最も高くなりました(van der Lindenら 2003)

再断裂と復帰の割合

項目数字
再断裂率手術 3.6%、保存療法 8.8%(7つのRCT、677名。Wilkins & Bisson 2012)。ただし、手術では感染や腓腹神経の障害が多くなる
競技復帰率研究によって61〜96%。85研究をまとめたシステマティックレビューでは、全体で80%(Tarantinoら 2020 のまとめ)

復帰できない選手も一定数いる、ということです。トレーナーとしては、受傷前と同じかそれ以上のレベルに、安全に戻すことが求められます。


想定例:大学テニス選手

ここからは、具体的な選手を想定して進めます(実在の症例ではありません)。

項目内容
学年・競技大学2年生(20歳)、男子硬式テニス部
身長・体重178cm、68kg
利き手右
診断左アキレス腱断裂
受傷場面ドロップショット(ネット際に落とすショット)を取りに前へ出たとき、左足で地面を蹴って受傷
手術受傷3日後、アキレス腱縫合術(Triple Bundle法)

テニスで求められる動き

リハビリでは、その競技を知ることが出発点です。ルール、コート、用具によって、必要な体の能力が変わるからです。テニスで求められる動きは、少なくとも次の9つです。

  1. 前後左右へのダッシュ
  2. ストップ
  3. ステップ
  4. 切り返し
  5. ジャンプ(サービス)
  6. 各種のストローク
  7. リアクション
  8. ボールを使った動き
  9. 試合形式

復帰までに、これらを段階的に取り戻していきます。


保護期(術後〜装具除去)

内容ポイント
ギプス・装具固定、松葉杖歩行装具の踵を高くして、縫合部が引き伸ばされないようにする。踵のパッドは段階的に抜いていく
足趾・足関節の自動運動痛みのない範囲で
足関節の等尺性の筋力訓練関節を動かさずに力を入れる
患部外トレーニング体幹、股関節、健側、全身持久力

腱を「伸ばさない」ことが最優先

この時期に最も避けたいのは、腱の延長(elongation)です。

アキレス腱断裂後の8名を追跡した研究では、患側の腱は健側より2.6〜3.1cm長く、踵を上げられる高さは4.1〜6.1cm低くなっていました。腱の長さの差が大きいほど、踵の高さの差も大きくなっていました(Silbernagelら 2012)。著者らは、腱の延長をできるだけ防ぐことが、機能を取り戻すうえで重要な目標だとしています。

早期に可動域訓練を始める方法でも、背屈は0°まで出れば十分で、過度な背屈の可動域訓練は延長を防ぐために控える、とされています(寺本 2019)。

装具期の使い方は、別記事で

装具期に落ちるのは、足関節だけではありません。全身持久力、患側の股関節・膝まわりの筋、体幹の回旋の力も同時に落ちます。これらは介入次第で維持できます。


訓練前期(〜術後3か月)

装具は6〜8週で外し、全荷重で歩けるようにしていきます。

内容ポイント
全荷重歩行装具を外した直後は、歩き方の左右差を確認する
足関節の他動可動域訓練腱の延長に注意。背屈を急いで広げない
下腿三頭筋の筋力訓練カーフレイズは端坐位から立位へ、両脚から片脚へ
バランス訓練片脚立ちなど
スクワット両脚から片脚へ
ジョギング片脚ヒールレイズができてから(後述)

端坐位のカーフレイズから始める理由: 断裂後10名の筋電図研究で、患側のヒラメ筋の活動は、座位でも立位でも差がありませんでした。著者らは、立って踵を上げられない時期でも、座位のカーフレイズで下腿三頭筋全体を鍛えられるとしています(Zellersら 2020)。

再断裂のリスク管理

この時期の再断裂は、バランスを崩して、とっさに足をついたときに起こりやすいと考えています。つま先で踏ん張ったとき、後ろへ足を踏み出したとき、などです。とくに装具を外した直後は、日常の中でも注意を促してください。

また、後足部が外反しているアライメントでは、内反筋力の強化や一時的な足底板の使用が有効で、体幹や下肢全体のバランス不良は、再断裂や反対側の受傷のリスクになる、と指摘されています(寺本 2019)。足部だけでなく、全身を見てください。

術後13週時点の状態(想定例)

項目状態
炎症なし
Thompsonテスト陰性(両側)
可動域底屈 45°/45°、背屈 20°/20°(患側/健側)
筋力(MMT)背屈 5/5、底屈 5/4
バランス左右差なし
動作日常生活・スクワットは可能。ジョギングは20分可能。ランニング、ジャンプ、ステップ動作は未実施

Thompsonテスト: ふくらはぎをつまんで、足首が底屈するかを見るテストです。底屈すれば陰性で、アキレス腱を通じて踵の骨まで張力が伝わっていることを示します。底屈しなければ陽性で、断裂を疑います。

日常生活では困らなくなっても、底屈筋力にはまだ左右差が残っています。ここから積極的なトレーニングに入ります。


訓練後期(術後3〜4か月)

目標

  • 機能:底屈筋力の左右差をなくす。持久力とアジリティを取り戻す
  • 動作:ダッシュ、ステップ、カッティング、ジャンプを獲得する

① 底屈筋力

  • 両脚から片脚のカーフレイズへ。膝を伸ばした位置と、曲げた位置の両方で
  • 背屈した位置から上げる(階段の縁、または体幹を前傾して)。慣れたらスピードを上げる
  • つま先歩き
  • コンビネーション・カーフレイズ(スクワットで立ち上がるのと同時に踵を上げる)
  • バランスマットやディスクの上で
  • ダンベル、バーベル、ウォーターバッグで負荷を足す
  • 台を使う

② ジョギングからランニングへ

始める基準:片脚のカーフレイズができること。

  1. その場でのジョギング
  2. ジョギング
  3. ランニング

スピードは遅いものから速いものへ、続ける時間は短いものから長いものへ進めます。20〜30分続けてジョギングできるようになったら、少しずつスピードを上げてランニングへ移ります。

底屈筋力がMMT5になり、片脚ヒールレイズが20回以上できれば、ランニングやジャンプを少しずつ取り入れる、という基準も示されています(寺本 2019)。

③ 再断裂を防ぐステップ

受傷した場面を再現しないように、足のつき方を練習します。

場面よい例危ない例
一歩後ろへ引いてから、前へ踏み出す股関節と膝を曲げて着く。股関節と膝の筋で受けられる股関節と膝を伸ばしたまま、足首を背屈させて着く。下腿三頭筋に負荷が集中する
後ろへ下がってから、前へ方向転換する体幹を前傾したまま行う体幹と骨盤が後傾する。股関節を使えず、下腿三頭筋の負荷が増える

④ カッティング(切り返し)

  1. ラン → 細かいステップ → ストップ
  2. サイドステップ(反復横跳びなど)
  3. カッティング:角度を鈍角 → 直角 → 鋭角へ。外側の脚で切り返す形と、クロスオーバーステップで切り返す形
  4. スラロームランニング
  5. ジグザグのドリル
  6. ダッシュ → 切り返して戻る

⑤ ジャンプ

始める基準:底屈筋力がMMT5。 ここから両脚のジャンプを始めます。

段階種目
1コンビネーション・カーフレイズ
2ドロップスクワット
3ボックスジャンプ(上り → 下り)
4スクワットジャンプ
5カウンタームーブメントジャンプ
6垂直跳び
7前後左右へのジャンプ
8ドロップ垂直跳び
9連続ジャンプ
10着地 → 前方へダッシュ

高さは低いものから高いものへ、速さは遅いものから速いものへ、両脚から片脚へ進めます。コンビネーション・カーフレイズは跳ぶ瞬間に近い動きなので、これができなければジャンプには進みません。

ジャンプの種類やり方
スクワットジャンプ(SJ)手を腰に当て、膝を90°曲げた姿勢から、反動を使わずに跳ぶ
カウンタームーブメントジャンプ(CMJ)手を腰に当てて立った姿勢から、沈み込んで(反動を使って)跳ぶ。腕は使わない
垂直跳び(VJ)腕の振りも使い、沈み込んでから跳ぶ
ドロップ垂直跳び台から降り、着地後すぐに垂直跳び

どれも両脚と片脚の両方があります。

訓練後期のリスク管理

確認すること見るポイント
ステップや着地で、足首が背屈しすぎていないか骨盤が後傾せず、股関節と膝で衝撃を吸収できているか
跳ぶときに、下腿三頭筋だけに頼っていないか股関節・膝の伸展と足首の底屈(トリプルエクステンション)が協調しているか。踵が地面から離れるのが遅れていないか。骨盤が後傾していないか
必要に応じてアキレス腱へのテーピングも検討する

復帰期(術後4〜6か月)

訓練後期を終える目安

  • カッティング動作への恐怖がない
  • スプリントができる
  • 100%の速度でアジリティができる

目標

  • 機能:素早い動きの中で、重心をコントロールする
  • 動作:リアクション、コート上でのアジリティ、ローボレー、アプローチショットのときのステップ

ローボレー: 相手のボールを、膝より低い位置でバウンドさせずに返すショット。 アプローチショット: ボレーで決めるために打つ、その1つ前のショット。打ったあとネット際へ走り、返ってきたボールをボレーで返します。

復帰期のメニュー

  1. 強度の高いアジリティトレーニング
  2. ローボレー、アプローチショットのときのステップ
  3. リアクション
  4. ボールを使ったトレーニング
  5. ミニゲーム

ここからは、競技の動きにできるだけ近い形で行います。

ドリルやり方目的
サイドステップ+ダッシュベースライン上にコーンを並べ、バックハンド側からダッシュ → サイドステップ → ダッシュでフォアハンド側へ。20秒疲れた状態でも、正しい姿勢でアジリティを行う
ダッシュ+リアクショントレーナーが指さした方向へダッシュし、すぐ中央へ戻る。20秒。前後左右、斜めでも行う合図への反応と、左右への加速
リアクション+前後左右への加速トレーナーが投げたボールを、ワンバウンド以内にキャッチしてパスし、コーンへ戻る。10回連続前後左右への加速を、連続して行う
フットワークのドリルベースラインでのサイドステップと、前後の移動を組み合わせる。フォア/バックハンドの位置から、ローボレー/アプローチショットの位置へ。クロスに8の字で動く形や、逆回りも試合で使う移動のパターンを、速く正確に
組み合わせフォア/バックハンド、ローボレー、アプローチショット、スマッシュの位置を、ボールに合わせて移動する試合に近い状況での判断と移動

最後に、ボールを打つ練習とミニゲームで、試合への復帰を判断します。


まとめ

期次へ進む目安気をつけること
保護期全荷重の許可腱を伸ばさない。背屈は0°まで出れば十分
訓練前期片脚ヒールレイズ。可動域が正常で症状がないバランスを崩してとっさに足をつく場面。装具を外した直後
訓練後期底屈筋力MMT5、片脚ヒールレイズ20回以上着地とステップで、股関節と膝で受けられているか
復帰期カッティングへの恐怖がない。スプリントと100%のアジリティ競技の動きに近づけ、疲れた状態でも姿勢を保てるか

参考文献

Silbernagel, K. G., Steele, R., & Manal, K. (2012). Deficits in heel-rise height and Achilles tendon elongation occur in patients recovering from an Achilles tendon rupture. The American Journal of Sports Medicine, 40(7), 1564–1571. doi:10.1177/0363546512447926

Tarantino, D., Palermi, S., Sirico, F., & Corrado, B. (2020). Achilles tendon rupture: mechanisms of injury, principles of rehabilitation and return to play. Journal of Functional Morphology and Kinesiology, 5(4), 95. doi:10.3390/jfmk5040095

van der Linden, P. D., Sturkenboom, M. C., Herings, R. M., Leufkens, H. M., Rowlands, S., & Stricker, B. H. (2003). Increased risk of Achilles tendon rupture with quinolone antibacterial use, especially in elderly patients taking oral corticosteroids. Archives of Internal Medicine, 163(15), 1801–1807. doi:10.1001/archinte.163.15.1801

Wilkins, R., & Bisson, L. J. (2012). Operative versus nonoperative management of acute Achilles tendon ruptures: a quantitative systematic review of randomized controlled trials. The American Journal of Sports Medicine, 40(9), 2154–2160. doi:10.1177/0363546512453293

Zellers, J. A., Brorsson, A., & Silbernagel, K. G. (2020). Impact of seated and standing positions on triceps surae muscle activation in unilateral Achilles tendon rupture. Translational Sports Medicine, 3(1), 3–8. doi:10.1002/tsm2.117

寺本篤史. (2019). アキレス腱断裂からのスポーツ復帰. The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine, 56(10), 796–799. doi:10.2490/jjrmc.56.796


注意事項

本記事はリハビリテーションの一例を紹介するものであり、個別の症状や状況に応じた治療・指導を保証するものではありません。

掲載内容は一般的な例示に基づいており、すべての患者に適用できるわけではないため、実際のリハビリテーションプログラムの策定や実施にあたっては、必ず専門医や理学療法士等の医療専門家と十分に相談の上で行ってください。

なお、本記事の内容に基づく自己判断や独断での実施により生じた事故や健康被害について、当方は一切の責任を負いかねます。


関連記事

広告