「現代病」とも言われる腰痛について、2012年までに調査された研究によって治療のガイドラインが作成されました。その内容について解説します。
結論
- 腰痛は、10人中8人が経験するといわれるほど一般的な疾患
- しかし、ほとんどの腰痛は深刻な問題にはなりません
- 腰痛になる可能性を高める危険因子
- 一般的なリスクは、座りすぎ、体調不良、不適切な腰の曲げ伸ばし動作や持ち上げ動作などの日常生活に起因するもの
- ストレスや睡眠不足は、痛みを悪化させる
- 年齢が上がるにつれて、筋力低下や関節の硬化により、より多くの腰痛を感じるようになることが多い
- 理学療法は、徒手療法と運動療法がメイン:運動療法は慢性化の治療に多く用いられる
参考文献
Delitto, A., George, S. Z., Van Dillen, L., Whitman, J. M., Sowa, G., Shekelle, P., … & Werneke, M. (2012). Low back pain: clinical practice guidelines linked to the International Classification of Functioning, Disability, and Health from the Orthopaedic Section of the American Physical Therapy Association. Journal of orthopaedic & sports physical therapy, 42(4), A1-A57.
腰痛の治療に関する臨床実践ガイドラインがJOSPTの2012年4月号に掲載されました。
このガイドラインでは、エビデンスに基づいて腰痛を治療する方法が記載されています。
腰痛の理学療法
- 早期治療は、腰痛が慢性化する確率を低下させるのに有効
- 腰痛は、全て同じ治療をするべきではない
- 理学療法士によって、腰椎や骨盤周囲の可動性、筋力を向上させるためにモビライゼーション、またはエクササイズが選択される
- エクササイズや活動性の向上に焦点を当てた治療は、腰痛の慢性化と再発を防ぐ効果がある
- 腰痛持ちの方は、痛みがひどくても改善する可能性が高い
- 活動的になることが重要で、ベッドで安静にしていることは避けるべき
- 正しい動き方を理学療法士から教わることで、より早く回復するための方法がわかる
- 急性腰痛症に対する最善の治療はモビライゼーション/マニピュレーション
- 痛みが軽減されたら、筋力、筋持久力、筋の協調性に焦点を当てたエクササイズ
- 痛みが慢性化している場合には、持久力に焦点を当てたエクササイズが疼痛管理に有効
痛みの程度に関わらず、腰痛が1週間程度続いて痛みが変わらないようだったら、慢性化と捉えて良いと思います。
発生率
1年間の腰痛の発症率は1.5~36%とされています。
活動が制限される程度の腰痛を経験した人は、24~33%が再発するとされており、高い再発率が問題とされています。
慢性腰痛は、急速に増加しているという報告があります。1992年には慢性腰痛が3.9%だったのに対し、2006年には10.2%に増加したとされています。
女性は男性よりも腰痛の有病率が高い傾向にあります。
女性の場合には、妊娠や出産なども腰痛に関与しているといわれていますね。
また、年齢の上昇とともに有病率も増加するようです。
職業による腰痛の有病率にも違いがあり、身体的負荷の高さと腰痛の有病率との間に関連性があります。
座りっぱなしになる仕事をする人は、有病率が18.3%にのぼります。
漫画家やPC作業の多い方では、正しい管理をする必要がありますね。
青年期では、20歳までに70~80%が腰痛を発症するという、高い有病率を示しています。
成人同様に、女性の方が有病率が高く、女性の腰痛リスクは男性の約3倍であると言われています。
エビデンスレベルの分類
研究のエビデンスレベルの分類と、治療の際の推奨グレードが定められています。
研究のエビデンスレベル
Ⅰがエビデンスレベルが高く、Ⅴでは高いエビデンスレベルがあるとは言えない、ということですね。
治療の推奨グレード
Aは、現段階でやったほうが良いと言える治療だと思います。
D~Fでは、やらない方がいい、というわけではありません。
現時点で確実なエビデンスがあるとは言えないので、その治療を行う時には患者個人の特性に合わせて適応していく必要があると思います。
リスク因子
腰痛の危険因子では、全てエビデンスレベルⅡのものが掲載されていました。
エビデンスレベルⅡ
- 遺伝:椎間板変性など、特定の傷害との関連
- 加齢に伴う椎間板の退行性変性には、遺伝や体格、生後初期の環境的な影響が関連していることが示されています。
- 高血圧と喫煙、過体重、肥満は坐骨神経痛と関連
- よく重要だと言われる、体幹筋力や腰椎の可動性については、腰痛のリスクであるという決定的なエビデンスはありません。
ここに記載しているものはエビデンスレベルⅡであるため、ある程度エビデンスがあるという判断もできます。理学療法士である筆者からすると、体幹筋力や脊柱の柔軟性が重要であることは言うまでもなく、非常に大切だと考えています。
患者自身の回復への期待が、腰痛からの職場復帰の予測因子であるというエビデンスが得られています。
期待値が高い患者では、フォローアップでの病欠が少なかったというエビデンスがあります。
腰痛は改善する可能性が高いことを知っているだけで、回復へ期待が持てますね。
- 痛みが強いほど経過が良くない
- 仕事の満足度が高いほど経過が良い
青年期の腰痛リスク因子
ある1つの研究では、身長、体重、肥満度は腰痛と強い関連性はなく、腰椎の可動性や体幹筋力の低下も関係がないとされています。
ウエイトリフティング、ボディービル、ボートなど特定のスポーツとの関連が示されています。
横断的な研究では、活動量と腰痛の有病率はU字型の傾向にあり、座りがちな人と活動量が極端に高い人で腰痛が発生しやすいことが報告されています。
リスク因子まとめ
腰痛の危険因子としては、「これだ!」という決定的なものはなく、多因子が複雑に関連していると言われています。
あらゆる面から治療に取り組む必要がある、ということですね。
ただ闇雲に「腹筋を鍛えましょう」と言うのではなく、日常生活の中に腰痛のリスクとなり得るものが潜んでないかチェックする必要がありますね。
以上、参考になれば嬉しいです。
ガイドライン②では、どんな治療が推奨されているのか解説します。
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