はじめに:この記事の想定と対象読者
この記事では、ACL(前十字靭帯)再建術後3ヶ月〜6ヶ月を対象とした段階的リハビリテーションのトレーニングメニューを紹介します。
想定しているリハビリの流れ:
- 術後3ヶ月:ジョギング開始
- 術後5ヶ月:ジャンプ動作開始
- 術後6ヶ月:全力ダッシュ・カッティング動作・競技復帰
対象読者: 理学療法士・アスレティックトレーナー・スポーツトレーナーなど、ACL術後のリハビリに携わる専門職
注意事項: 本記事のトレーニングメニューはあくまで一例です。実際のリハビリは患者の回復状況・術式・主治医の指示に従い、個別に調整してください。
リハビリの全体像:マイルストーンと目標
| 時期 | 主な目標 | 復帰基準の目安 |
|---|---|---|
| 3ヶ月 | ジョギング開始・基本的なCKC動作の獲得 | 片脚立ち上がり(台40cm) |
| 4ヶ月 | 60%ランニング・着地耐性の向上 | 片脚立ち上がり(台30cm) |
| 5ヶ月 | ジャンプ動作開始・H-Q共収縮の確立 | 片脚立ち上がり(台20cm) |
| 6ヶ月 | 全力ダッシュ・カッティング・競技復帰 | シングルホップ・アジリティテスト |
H-Qとは: Hamstring(ハムストリングス)とQuadriceps(大腿四頭筋)の共収縮のこと。膝関節を前後の力から守るために重要な筋バランスです。
【3〜4ヶ月】CKCトレーニング:大腿四頭筋の回復を中心に
目標: 4ヶ月以降の50%ランニングに向けて、Quadriceps(大腿四頭筋)の萎縮を解消し筋力を向上させる
CKC(Closed Kinetic Chain)とは: 足が床や台に接地した状態で行う運動。膝・股関節・足関節が連動して動くため、ACL再建後の早期から安全に実施しやすい。
3ヶ月以降で導入するCKC種目
ジョギング・ホップ系
- ジョギング(平地)
- アンクルホップ
スクワット系(両脚→片脚へ段階的に移行)
- 両脚スクワット(6ヶ月まで膝屈曲90°以下)
- スプリットスクワット
- ブルガリアンスクワット
- 片脚スクワット
- セラバンドを使用したスクワット(横方向の抵抗)
- ドロップスクワット
- バーベルスクワット
ランジ系
- フロントランジ
- バックランジ
- サイドランジ
ホップ・ステップ系
- ハーキーステップ
- サイドホップ
- ラテラルジャンプ
【4ヶ月以降】CKCトレーニング発展:着地耐性とH-Q共収縮の獲得
目標: 5ヶ月でのジャンプ開始に向けて、着地(landing)に耐えられるH-Q共収縮を促す
4ヶ月以降で追加する種目
ランニング・縄跳び
- 60%強度でのランニング
- 縄跳び
ヒンジ・ステップ系
- kneeling ヒップヒンジ
- ステップアップ
- 台上20cmからのランジでストップ
負荷・複合動作系(ウォーターバッグを活用)
-
- オーバーヘッドランジ
- ランジウォーク
- デッドリフト+ウォーターバッグ+トランクローテーション
– バリエーション:ゆっくり/素早く、両脚/片脚、肩負荷/胸負荷
バランス・ジャンプ系
- T字バランス → トリプルエクステンション
- ジャンプ on/off
- ランジでホップ
OKCトレーニング(〜6ヶ月)
OKC(Open Kinetic Chain)とは: 足が空中に浮いた状態で行う運動。Leg extensionのように単関節を単独で動かすため、ACL再建後は可動域制限を設けて実施する。
注意:ACL再建後6ヶ月まで、膝伸展・膝屈曲ともに可動域を制限して実施します。
| 種目 | 可動域の制限 |
|---|---|
| Leg extension | 70〜90°の範囲のみ |
| Leg press | 70〜90°の範囲のみ |
膝伸展0°(完全伸展)に近い角度では、ACLグラフトへの前方引き出しストレスが大きくなります。6ヶ月まではこの範囲制限を厳守してください。
ハムストリングストレーニング
ハムストリングスはACLの動的な安定機構として重要であり、術後グラフト採取側(特に薄筋・半腱様筋)の回復を丁寧に進める必要があります。
3ヶ月以降から導入
- 片脚ヒップリフト
4ヶ月まで:可動域を制限して実施
-
- レッグカール(30〜90°の範囲に限定)
– 4ヶ月以降は深屈曲域も追加可
4ヶ月以降:多様な負荷・姿勢で強化
- 膝伸展位のヒップリフト
- 片脚ブリッジ(BOX上)
- T字バランス
- ニーリングレッグカール
- 四つ這いでボールサンド+Hip extension
体幹トレーニング
体幹の安定性は競技復帰後のカッティング・着地動作において膝への負担を軽減するために不可欠です。CKCトレーニングと並行して取り入れてください。
- マウンテンクライマー(体幹回旋・股関節屈曲の協調)
体幹トレーニングの詳細については「体幹機能の評価とトレーニング」の記事も参照してください。
【5ヶ月以降】アジリティ・コーディネーショントレーニング
目標: 6ヶ月での全力ダッシュ・シングルホップ・カッティング動作の獲得
5ヶ月以降は、直線ランニングだけでなく方向転換・反応動作・着地制御を含むトレーニングへ移行します。
| カテゴリ | 種目 |
|---|---|
| アジリティ | ラダートレーニング |
| ジャンプ・着地 | ボックスジャンプ |
| 片脚ホップ | ケンケン(シングルホップ) |
まとめ:段階的な復帰のポイント
ACL再建術後のリハビリで最も重要なのは、「時期」に合わせた適切な負荷設定と可動域管理です。
| 重要なポイント | 内容 |
|---|---|
| CKCを優先 | 術後早期からCKCで安全に筋力回復を促す |
| OKCは可動域制限あり | 6ヶ月まで70〜90°に限定 |
| Hamの可動域も段階的に | 4ヶ月まで30〜90°、以降は深屈曲域追加 |
| H-Q共収縮の確立 | ジャンプ前に着地耐性を必ず確認 |
| 片脚立ち上がり台高を指標に | 40cm→30cm→20cmで進捗を評価 |
各時期の基準をクリアしながら段階的にトレーニング負荷を上げることで、再受傷リスクを最小化した競技復帰が可能になります。
執筆:整形外科クリニック勤務の理学療法士(JSPO-AT) 本記事のトレーニングメニューは一般的な例示であり、個々の患者様の状態・術式・主治医の指示に従い調整してください。


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