アキレス腱断裂術後、装具下の両脚CKCはいつ始めるか|開始基準は全荷重許可

全荷重(FWB)の許可が出ました。装具はついたままで、ヒールウェッジも入っています。歩行はまだ杖を使っている段階です。

ここで手が止まります。

荷重下のトレーニングを、どこから入れればいいのか。杖なしで歩けるようになってからでしょうか。それとも、もう入れてよいのでしょうか。

主治医のプロトコルには「FWB可」としか書かれていません。両脚スクワットを入れてよいかどうかは、書いていません。

この記事は、その判断をどう組み立てるかをまとめたものです。

対象読者: アキレス腱断裂術後を担当する理学療法士、アスレティックトレーナー


結論

先に書きます。

  1. 「CKC」をひとつの箱に入れない。2系統に分けて、別々の時間軸で管理します
  2. 装具で足関節が保護された状態での下肢キネティックチェーン課題(A系統)は、全荷重が許可された時点で開始できます
  3. 開始ゲートを「杖なし歩行」に置くと、必要以上に遅れます
A系統 B系統
内容 両脚ミニスクワット、ヒップヒンジ、荷重移動、ステップ動作 両脚カーフレイズ → 片脚カーフレイズ
足関節の状態 装具で保護されている 腱に直接負荷をかける
目的 荷重対称性の再学習、股・膝の筋力維持、固有感覚 腱への漸増負荷
進行を決める変数 荷重量と対称性 足関節角度と底屈筋の要求
開始ゲート 全荷重の許可 主治医のプロトコルに従う

以下、根拠を書きます。この記事が扱うのはA系統のみです。


なぜ2系統に分けるのか

「CKCを始める」という言葉が、現場で混乱を生みます。

両脚ミニスクワットと片脚カーフレイズは、どちらもCKC(closed kinetic chain=遠位が固定された運動連鎖)です。 しかし、腱にとっての意味がまったく違います。

前者は、足関節を装具で固定したまま、股関節と膝関節を動かします。腱は保護されています。

後者は、腱そのものに負荷をかけます。それが目的です。

この2つを「CKC」という同じ言葉でまとめると、進行の判断ができなくなります。 一方を進めてよいかどうかを、もう一方の基準で判断してしまうためです。

分けたうえで、A系統には荷重量の基準を、B系統には足関節角度と底屈筋の要求の基準を当てます。


開始ゲートは「全荷重の許可」で足ります

A系統の開始条件を「杖なしで歩けるようになったら」と設定している方は多いと思います。

しかし、力学的には逆です。

歩行のほうが要求が高い

歩行には単脚支持期があります。片脚だけで全体重を支える瞬間があるということです。

課題 患側1肢あたりの荷重
両脚立位 約 0.5 BW
両脚ミニスクワット 約 0.5 BW
歩行(単脚支持期) 約 1.0〜1.2 BW

※ BW=体重(body weight)

歩行では、床反力のピークが体重の1.0〜1.2倍程度に達します。両脚ミニスクワットは体重を2肢で分けるため、1肢あたりはおよそ半分です。

歩行を許可しておきながら、両脚ミニスクワットを「まだ早い」と判断するのは、力学的に筋が通りません。

全荷重が許可されているということは、患側1肢が体重相当を支えることを主治医が許可している、ということです。両脚課題はその範囲に収まります。

ひとつ、混同しないこと

「1肢あたりの荷重」と「腱にかかる張力」は別物です。

歩行の踏み切り局面では、底屈筋が強く働きます。腱張力は体重の数倍に達します。一方、踵をついた両脚ミニスクワットでは、底屈筋の要求はごく小さいままです。

つまり、荷重量が同じでも腱張力は同じではありません。 ここを分けて考えることが、次の節につながります。


警戒すべきは再断裂より「延長」です

術後早期に注意すべきものを、再断裂だと考えている方が多い印象があります。

もちろん再断裂は避けなければなりません。しかし、この時期にリハビリの設計を左右するのは、腱の延長(elongation)のほうです。

延長が何を起こすか

腱が伸びた状態で治癒すると、筋腱複合体の長さが変わります。同じ関節角度で発揮できる底屈トルクが落ちます。

再断裂は起きていません。創部もきれいです。それでも、片脚踵挙上ができない。ジャンプの高さが戻らない。そういう経過をたどります。

そして、いったん延長した腱は、運動療法では元の長さに戻りません。 予防以外に手がない、という性質のものです。

駆動因子は荷重量ではなく背屈

ここが実務上いちばん重要な点です。

早期からの荷重や可動域訓練は、再断裂を増やさないという方向で報告が積み重なっています。Willitsら(2010)の多施設ランダム化比較試験も、早期からの機能的リハビリテーションを用いたものでした。

腱を引き伸ばすのは、荷重量そのものではありません。荷重下で足関節が背屈することです。

要素 腱張力への影響
荷重量が増える 底屈筋の要求が増えなければ、影響は限定的
足関節が背屈する 腱が直接伸ばされる
底屈筋が強く働く 張力が上がる
踵をついたまま膝を曲げる 背屈が入る。ウェッジがあれば制限される

ヒールウェッジは構造的な保護です

ヒールウェッジが入っている間、足関節は底屈位に保持されます。背屈方向に動こうとしても、構造的に止まります。

これは、A系統にとって好都合です。ウェッジが入っている範囲でのCKCは、腱にとって比較的安全な条件下で行われることになります。

装具を「動きを妨げるもの」として見ると、外れるまで待つ発想になります。保護されている期間を使える期間として見ると、設計が変わります。

【私の臨床上の判断】 「全荷重許可でA系統を開始してよい」という基準そのものは、直接それを検証した研究に基づくものではありません。上記の力学的な整理から私が組み立てているものです。実際には、術式・固定方法・主治医の指示が最優先です。プロトコルに荷重下トレーニングの記載がない場合は、確認したうえで進めてください。


実務上の落とし穴

① 患側だけ踵が挙上している

装具を履いた患側は、健側より数センチ高い位置にあります。

この状態で両脚課題を行うと、骨盤が傾斜します。 患側が高く、健側が低い。脊柱は側屈します。

問題は、荷重が偏ることだけではありません。荷重対称性を評価しようとしている、その評価自体が歪みます。 患者が荷重をかけられないのか、傾いているからかけられないのかが、区別できなくなります。

健側の靴に、装具と同等の高さのシューリフトを入れてください。 高さを合わせてから課題に入ります。

これは患部外トレーニングの記事でも書いた、脚長差の処理と同じ考え方です。

② 荷重率は見ても分かりません

「患側にちゃんと乗れているか」を目視で判断するのは困難です。膝の角度や体幹の位置で、乗っているように見えてしまいます。

体重計を2台並べて、両足を乗せてください。 数字が出ます。

患側荷重率を毎回記録すると、進行の判断材料になります。患者自身へのフィードバックとしても機能します。

③ ウェッジ除去の週に新規課題を足さない

これがいちばん見落とされます。

ウェッジを1枚抜くということは、足関節の背屈角度が増えるということです。それ自体が負荷イベントです。

同じ週に新しい課題を追加すると、症状が出たときに原因を切り分けられなくなります。ウェッジのせいなのか、新しい種目のせいなのか、判断できません。

変数は1つずつ動かします。 ウェッジを抜いた週は、既存の課題を継続して経過を見る週にあててください。


進行をどう管理するか

次へ進む4つの基準

次の段階へ進んでよいかを、4つで判断しています。

基準 確認方法
運動後の疼痛が24時間以内にベースラインへ戻る 翌日の来院時、または本人の記録で確認
翌朝の腫脹・周径が増悪していない 同一部位で周径を測定し、記録と比較
創部の治癒が完了している 視診。滲出、離開、発赤の有無
患側荷重率の左右差が10%以内 体重計2台で測定

上の2つは、負荷が過剰でなかったかを見る基準です。その場の疼痛だけで判断すると、24時間後に出る反応を拾えません。

下の2つは、次の課題に進む条件です。荷重が対称にならないうちに片脚課題へ進むと、健側優位の代償がそのまま定着します。

なお、荷重率の左右差10%という数値は、私が実務上の目安として使っているものです。 明確な根拠のある閾値ではありません。施設の方針があれば、そちらを優先してください。

時期別の課題整理

A系統の進め方を、装具の状態で並べます。

時期 A系統で行うこと 注意点
全荷重許可の直後 両脚立位での荷重移動、体重計2台での荷重率確認、ヒップヒンジ シューリフトで高さを合わせる
ウェッジ漸減中 両脚ミニスクワット、前後・左右への荷重移動、低い台へのステップアップ ウェッジを抜いた週は課題を増やさない
ウェッジ除去後(装具は継続) 上記の可動域を拡大、ステップダウン、両脚での重心コントロール課題 背屈が入る。腱の反応を24時間で確認
装具離脱後 B系統(カーフレイズ)と統合し、片脚課題へ 別記事で扱います

A系統は、装具期のあいだに完了させておく課題です。

装具が外れてからB系統を本格化させる時期に、荷重対称性の再学習まで同時に行うと、進行が遅れます。先にできることは、先に済ませておくという考え方です。


まとめ

論点 内容
分け方 CKCをA系統(装具下の下肢課題)とB系統(腱への漸増負荷)に分ける
A系統の開始ゲート 全荷重の許可。杖なし歩行を条件にしない
理由 歩行は患側1肢に約1.0〜1.2 BW、両脚ミニスクワットは約0.5 BW
早期の警戒対象 再断裂よりも腱の延長
延長の駆動因子 荷重量ではなく荷重下での背屈
ヒールウェッジ 背屈を構造的に制限する。保護されている期間として使う
落とし穴 健側のシューリフト、体重計2台、ウェッジ除去週に課題を足さない
進行基準 24時間で疼痛が戻る/翌朝の腫脹なし/創部治癒/荷重率の左右差10%以内

装具期は「待つ期間」に見えます。しかし、足関節が保護されているという条件は、股関節と膝関節の課題を進めるうえでは有利に働きます。

その条件を使い切れるかどうかで、装具を外したときの立ち上がりが変わります。


注意事項

本記事はリハビリテーションの考え方の一例を示したものであり、個別の症例に対する治療・指導を保証するものではありません。

術式、固定方法、荷重・可動域の許可範囲については、主治医の指示が最優先です。 本記事の内容は、主治医のプロトコルを置き換えるものではありません。プロトコルに記載のない課題を追加する場合は、事前に確認してください。

掲載内容は一般的な例示に基づいており、すべての症例に適用できるわけではありません。実際のプログラムの策定と実施にあたっては、専門医および理学療法士等と十分に相談のうえ行ってください。

なお、本記事の内容に基づく判断により生じた事故や健康被害について、当方は一切の責任を負いかねます。


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