ACL再建術後のスポーツ復帰ガイド|術後5〜7ヶ月のトレーニングと復帰基準を数値で整理

前十字靭帯(ACL) 再建術後5ヶ月以降は、筋力を戻す段階から、スポーツ動作そのものを再獲得する段階へ移ります。

ジャンプ、切り返し、全力疾走。この3つをどの順番で、何を確認してから導入するか。ここの判断が曖昧なまま進めると、再受傷のリスクを上げることになります。

この記事では、術後5〜7ヶ月のトレーニングの進め方と、復帰可否を判断するための数値基準を整理します。

術後3〜6ヶ月のトレーニング(CKC・OKC・ハムストリングス・体幹)については別記事にまとめています。
→ 「【理学療法士監修】ACL再建術後リハビリ完全ガイド|術後3〜6ヶ月の段階的トレーニング計画

対象読者: 理学療法士・アスレティックトレーナーなど、ACL術後リハビリに携わる専門職
注意事項: 本記事は一般的なプログラム例です。開始時期と負荷設定は、主治医・理学療法士による評価(可動域・腫脹・疼痛・筋力測定)にもとづいて個別に調整してください。痛みや過度の腫脹が生じた場合は直ちに中止してください。


全体像:いつ何を入れるか

時期 導入する動作 この時期の狙い
4ヶ月〜 スキップ、ラダー 接地と切り替えの再教育
5ヶ月〜 加速走(80%まで)、両脚ジャンプ 着地耐性の獲得
6ヶ月〜 切り返し、減速動作、全力疾走 competitive な動作への移行
6〜7ヶ月 競技特異的動作、接触プレー 復帰判断

ひとつ前の段階が安定してから次へ進むのが原則です。月数はあくまで目安で、基準を満たさないまま次に進むのが最も危険です。


【4〜5ヶ月】切り返しの準備をつくる

この時期は、まだ全力では走りません。接地の質を整えるフェーズです。

  • スキップ
  • ラダートレーニング(少しずつ複雑さを上げる)

スキップは、短い接地時間で弾む動作の入口として使いやすい種目です。ラダーは足の置き換えの速さより、膝が内側に入らないことを優先して見てください。

5ヶ月に入ったら、加速走を加えます。

  • 加速走(80%までのダッシュ)
  • シザースランジ

いきなり全力にせず、80%で止めるのがポイントです。


【5〜6ヶ月】ジャンプを導入する

6ヶ月以降に全力疾走と切り返しを開始することを見据えて、その準備を5ヶ月のうちに済ませておくという考え方です。

  • 両脚スクワットジャンプ
  • ボックスジャンプ
  • 片脚スクワット
  • スピードランジ
  • 両脚スクワットジャンプ → 前方ホップ
  • 片脚スクワットジャンプ 横方向に10往復

両脚から片脚へ、その場から移動を伴う動作へ、と段階的に進めます。着地の質が崩れたら、その日はそこで止めるのが安全です。回数をこなすより、1回ごとの着地を見るほうが重要です。

横方向の片脚ジャンプが最後に来る理由

最後の種目は、難易度を上げる要素が3つ重なっています。

要素 意味
片脚 支持が半分になる
横方向 前方より膝が内側に入りやすい
10往復 疲労した状態での着地を見る

横方向の着地は、前方より膝外反が出やすい方向です。6ヶ月以降に始める切り返しは、まさにこの方向の動作です。その前に、制御できる範囲で横方向の着地を経験させておくという位置づけになります。

連続10往復にするのは、疲れてから崩れるかを見るためです。1回だけなら整った着地ができても、往復を重ねるうちに膝が内へ入り始める症例がいます。そこが現時点の上限です。

何往復目で崩れたかを記録しておくと、次回の比較ができます。


【6ヶ月〜】切り返しと全力疾走

ここから競技動作に近づきます。

筋力・制動系

  • シシースクワット
  • ノルディックハムストリングス
  • リバースノルディックハムストリングス
  • 減速動作訓練

方向転換・アジリティ

  • サイドホップ
  • T字ドリル
  • 反復横跳び
  • 5-10-5ドリル

スプリント

  • 50〜70% → 全力スプリントへ段階的に

ノルディックハムストリングスは、ハムストリングスのエキセントリック筋力を高める種目として、再受傷予防の文脈でよく取り上げられます。減速動作訓練とあわせて入れておきたいところです。

減速動作:膝への負荷を分散させる

切り返しで膝が壊れるのは、止まる局面です。ここを膝だけで受けないようにします。

股関節屈曲と体幹前傾で負荷を分散させるのが基本方針です。

  • 台からランジ → 素早く止まる
    • ウォーターバッグを肩に担いで、真っすぐ/回旋を加える
    • キューイングは「体幹を前傾して止まる」。ヒップヒンジの形になります
  • ランジウォーク
    • 同じく体幹を前傾して止まります
    • 足をなるべく高く上げると、着地時のleg retraction(接地前に脚を引き戻す動き)と共収縮が促されます

カッティング動作

  • 45°と90° で行います。ポールを立てて、それを抜ける動きにすると角度が安定します
  • カッティング時に肩外転、ウォーターバッグ2.5kgでパンチを加える
  • リアクション課題へ進めます
    • 指をさした方向にカッティング
    • 指をさした方向と逆にカッティング

逆方向の課題は、判断が入ってから動くぶん難易度が上がります。試合中の切り返しは、あらかじめ決まった方向へ動くわけではありません。

サイドステップ:頭を動かさない

サイドステップで見るのは足ではなく頭の高さです。上下に揺れるほど、着地の衝撃を膝で受けることになります。

確認の方法

  • トレーナーが手を選手の頭上に置いた状態でシザース
    • 頭が手に当たらないように行う
    • 1ステップ → 2ステップと増やす
  • トレーナーが棒を頭上に置いて左右に動かし、選手は頭の高さを保ったままサイドステップ
  • 左右にボールパスを足す

負荷を上げる

  • セラバンドを両手で水平外転方向に開きながらサイドステップ
  • クロスステップ
  • フロント⇔バックステップ + ボールパス

ボールパスを入れるのは、視線と注意を足元から外すためです。動作に集中している間はできても、他に注意が向くと崩れる。試合の状況に近づけていく段階です。


全力疾走を開始してよいかの基準

月数ではなく、以下を満たしているかで判断します。

項目 基準
腫脹 ない
屈曲角度 140°以上
伸展 制限がない
大腿四頭筋・ハムストリングス筋力 健患比80%以上
ジョギング・50%ランニング 疼痛がない
大腿周径 左右差がない
片脚スクワットジャンプ できる
減速動作 できる

ひとつでも欠けているなら、全力疾走はまだ早いと考えたほうがいいです。


スポーツ復帰の判断基準

復帰の可否は、左右差がないことを軸に判断します。言い換えれば、非対称性を検出することが評価の目的です。

機能・可動域

項目 基準
疼痛(NRS) 3未満(2以下)
屈曲角度 140°〜最大屈曲
HBD(踵殿距離) 0cm
HHD(踵高差) 0〜2cm以下

HBD: Heel Buttock Distance。腹臥位で膝を曲げたときの踵と殿部の距離。屈曲制限の指標。
HHD: Heel Height Difference。腹臥位で膝を伸ばしたときの左右の踵の高さの差。伸展制限の指標。

筋力と主観的スコア

段階 健患比 IKDC
ランニング復帰 60%以上 70点以上
スポーツ復帰 80〜90%以上 90点以上

IKDC: International Knee Documentation Committee subjective knee form。膝の症状・活動レベルを患者本人が回答する主観的評価スコア。

ホップテスト

テスト 基準
シングルホップテスト 90%以上
トリプルホップテスト 90%以上
シングルレッグバーティカルジャンプ 90%以上
連続バーティカルジャンプ 実施して左右差を確認

いずれも健側を100としたときの患側の比率です。数値が揃っていても動作の質が悪ければ復帰は待つべきで、テストは「見るための道具」であって合格証ではありません。


再受傷リスクを高める要因

復帰基準を満たしていても、再受傷しやすい因子は残ります。ここは押さえておきたいところです。

心理的準備度(ACL-RSI)は、高すぎても注意がいる

ACL-RSI(Anterior Cruciate Ligament Return to Sport after Injury scale)は、復帰に対する心理的な準備度を測る質問票です。

一般には「スコアが低い=恐怖感が残っている=復帰に慎重であるべき」と受け取られがちですが、逆方向の報告があります

上田らは、初回ACL再建術後3ヶ月時点のACL-RSIと、24ヶ月以内の再受傷との関連を調べました(169名)。ROC解析から得られたカットオフは65点で、結果は次のとおりです。

3ヶ月時点のACL-RSI 24ヶ月以内の再受傷率
65点以上(高スコア群) 17.6%
65点未満(低スコア群) 3.4%

傾向スコアマッチング後も18.6% vs 4.7%と差が残っています。

つまり、術後3ヶ月という早い段階で心理的準備度が高すぎる患者は、再受傷しやすいという結果です。組織の治癒が追いついていない時期に自信が先行すると、動作の抑制が効かなくなる。そう解釈すると臨床的にも腑に落ちます。

スコアが低い患者を励ますだけでなく、早期に高い患者にはブレーキをかける。この視点を持っておきたいところです。

なお、ACL-RSIのスコアは術後の経過とともに上昇していく傾向が報告されています(術前44.4 → 術後3〜6ヶ月61.5 → 7〜12ヶ月65.1)。3ヶ月時点で65点というのは、平均より明らかに先行している状態だと分かります。

ハムストリングス筋力は「左右差」だけでは説明できない

ハムストリングスの筋力低下は再受傷の因子として長く語られてきましたが、現時点では結論が割れています

関連しなかったとする報告

Sundbergらは526名を2年追跡し、復帰時点の等速性膝屈曲筋力の左右差(LSI)と2度目のACL損傷との関連を検討しました。LSIを90%以上/80〜89.9%/80%未満の3群に分けても、再受傷率に有意差は認められませんでした(全体で9.7%発生)。

著者らは、座位での等速性膝屈曲テストが、ハムストリングスの実際の動的安定化能力を反映していない可能性を指摘しています。

関連したとする報告

一方、Kyritsisらはプロ選手を対象に、復帰前の6項目の基準を満たさなかった選手はグラフト再断裂リスクが4倍になると報告しています。この研究ではH:Q比が10%低下するごとに、再断裂リスクが10倍以上という結果も示されています。

どう読むか

この2つは矛盾しているようで、見ている指標が違います。前者はハムストリングス単独の左右差、後者は大腿四頭筋との比(H:Q比)です。

ハムストリングスは脛骨の前方移動を制動する役割を担うので、大腿四頭筋がどれだけ強いかとの関係で意味が決まります。単独の数値ではなく、比で見るほうが理にかなっています。

臨床的には、ハムストリングスのLSIが基準を満たしていても安心せず、H-Q共収縮が機能しているかを動作で確認する。ここは前段階から積み上げておくべき部分です。

前段階のトレーニングについては、術後3〜6ヶ月の記事で扱っています。


まとめ

ポイント 内容
進め方 月数ではなく、前段階の基準達成で判断する
ジャンプ導入 5ヶ月。両脚 → 片脚、その場 → 移動へ
全力疾走 健患比80%以上と、片脚スクワットジャンプ・減速動作が前提
復帰判断 健患比80〜90%、IKDC 90点、ホップテスト90%以上
心理的準備度 低い患者だけでなく、3ヶ月で65点以上の患者にも注意
ハムストリングス 単独のLSIではなくH:Q比と動作で評価する

数値基準は判断を助ける道具であって、満たしたから復帰させるためのものではありません。動作の質、競技特性、本人の準備度をあわせて総合的に判断してください。


参考文献

Ueda, Y., Matsushita, T., Shibata, Y., et al. (2024). Association Between Psychological Readiness to Return to Sports at 3 Months Postoperatively and Risk of Second ACL Injury. Orthopaedic Journal of Sports Medicine. doi:10.1177/23259671241239325

Sundberg, A., et al. (2025). Persistent isokinetic knee flexion strength deficits at the time of return to sport are not associated with a second ACL injury. Knee Surgery, Sports Traumatology, Arthroscopy. doi:10.1002/ksa.12718

Kyritsis, P., Bahr, R., Landreau, P., Miladi, R., & Witvrouw, E. (2016). Likelihood of ACL graft rupture: not meeting six clinical discharge criteria before return to sport is associated with a four times greater risk of rupture. British Journal of Sports Medicine, 50(15), 946–951. doi:10.1136/bjsports-2015-095908

Sell, T. C., et al. (2024). Anterior Cruciate Ligament Return to Sport after Injury Scale (ACL-RSI) Scores over Time After Anterior Cruciate Ligament Reconstruction: A Systematic Review with Meta-analysis. Sports Medicine – Open. doi:10.1186/s40798-024-00712-w

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