変形性股関節症の保存療法は運動療法が中心、というところまでは共通認識だと思います。
問題は何を変えるかです。
この記事では、立位のアライメントを起点にして整理します。運動療法のメニューを増やす前に、1日のうち最も長く取っている姿勢を見たほうが早いことがあるためです。
対象読者: 理学療法士・作業療法士など、股関節のリハビリに携わる専門職
ガイドライン上の位置づけ
OARSIの2019年ガイドラインでは、股関節OAのCore Treatment(中核的治療)が2つ挙げられています。
- 関節症についての患者教育
- 陸上での構造化された運動プログラム
膝OAではこれに減量が加わりますが、股関節と多関節では上記2つです。
膝と股関節で扱いが違うもの
同じガイドラインの中で、膝OAでは推奨されるが股関節OAでは推奨に至らなかった介入があります。
| 介入 | 膝OA | 股関節OA |
|---|---|---|
| 関節内ステロイド注射 | Level 1B / 2(併存症による) | 推奨に至らず |
| 関節内ヒアルロン酸 | Level 1B / 2(併存症による) | 推奨に至らず |
| 水中運動 | Level 1B / 2(併存症による) | 推奨に至らず |
水中運動は、股関節OAに対して現場でよく選択されます。膝と同じ感覚で勧めていないかは、一度確認する価値があると思います。
なお、アセトアミノフェンは条件付きで非推奨(Level 4A / 4B)、経口・経皮のオピオイドは強く非推奨(Level 5)とされています。
つまり、股関節OAで残る中核は陸上での運動療法です。 だからこそ、その中身が問われます。
まず、立ち方を見てください
外来で多いのが、両脚立位のときに片側へ体重を預けている例です。
本人に自覚はありません。「楽な立ち方」として定着しています。信号待ち、レジの列、調理中。1日の合計で考えると、相当な時間になります。
このとき骨盤は、荷重側とは反対に下がります。トレンデレンブルグ肢位です。
その立ち方が股関節に何を起こすか
ここが本題です。連鎖で見ると分かりやすくなります。
片側に体重を預ける
↓
トレンデレンブルグ肢位(骨盤が反対側へ下制)
↓
荷重側の股関節が 相対的な内転位 になる
↓
骨頭の被覆率が低下する
↓
骨頭が上前方へ偏位する
↓
変形性股関節症の進行
相対的な内転位になる
骨盤が反対側へ下がるということは、荷重側の大腿骨に対して寛骨臼が傾くということです。
大腿骨自体は動いていなくても、骨盤側が動くことで股関節は内転位になります。 これが「相対的な内転位」です。
被覆率が落ちる
股関節は、内転すると骨頭を覆う寛骨臼の面積が減ります。
覆う面積が減れば、同じ荷重でも単位面積あたりの応力は上がります。 臼蓋形成不全がある症例では、もともと被覆が少ないぶん、この影響が大きくなります。
骨頭が上前方へ偏位する
被覆が減った状態で荷重が続くと、骨頭は覆いの薄い方向へ押し出されます。上前方への偏位です。
そして偏位した位置での荷重が、また被覆率を下げる。進行の悪循環がここで回り始めます。
運動療法で筋力を上げても、立ち方が変わらなければこの循環は止まりません。 起きている時間のほとんどは、その立ち方で過ごしているからです。
痛みの出どころ:大腿直筋反回頭
股関節の上外側に痛みを訴える症例では、大腿直筋の反回頭を疑います。
大腿直筋には2つの起始があります。
| 起始 | 付着部 |
|---|---|
| 直頭(straight head) | 下前腸骨棘(AIIS) |
| 反回頭(reflected head) | 寛骨臼の上縁から股関節包 |
反回頭は、まさに骨頭が偏位していく上外側に位置しています。
骨頭が上前方へ移動すれば、この部位は直接その影響を受けます。上外側の痛みとして訴えられることが多いのは、位置関係からして自然だと考えています。
「股関節の前が痛い」で腸腰筋だけを疑わず、上外側の反回頭も触れてみてください。 被覆率低下の連鎖と、痛みの部位が一致します。
評価:足部に対する骨盤の位置を見る
見ているのはシンプルです。立位で、足部に対して骨盤がどこにあるか。
前額面で観察します。両足の真ん中に骨盤の中心があるか。それとも、どちらかへ寄っているか。
体重を預けている側へ、骨盤は寄ります。 荷重の左右差は本人に自覚がなくても、骨盤の位置という形で外から見えます。ここが起点です。
そして骨盤が荷重側へ寄るということは、反対側が相対的に下がっているということでもあります。前述のトレンデレンブルグ肢位です。
つまりこの1つの所見で、連鎖の入口が確認できます。
骨盤が足部に対して片側へ寄っている
= その側に荷重を預けている
= 反対側の骨盤が下制している
= 荷重側の股関節が相対的な内転位にある
特別な機器は要りません。立たせて、前から見る。 これで判断できます。
FABERテストを、疼痛減弱テストとして使う
立位の観察に加えて、背臥位でもう1つ確認します。
先に、この検査の限界を書いておきます
Reimanら(2015、BJSM)は、股関節のFAI・関節唇損傷に対する徒手検査の診断精度をシステマティックレビューで検討しました。21研究のうち、質が高いと判定されたのは1研究のみです。
メタアナリシスの対象になった検査でも、結果はこうでした。
| 検査 | 感度 | 診断オッズ比 |
|---|---|---|
| 屈曲・内転・内旋(FADIR) | 0.94〜0.99 | 5.71〜7.82(信頼区間が1をまたぐ) |
| 屈曲・内旋 | 0.96 | 8.36(95%CI 0.41〜171.3) |
著者らの結論は、これらの検査はスクリーニングの精度しか持たないというものです。
つまり、「陽性だから関節唇損傷」とは言えません。 感度は高いので除外には使えますが、どの構造が、どこで痛んでいるかまでは分かりません。
だから、使い方を変えます
| 使い方 | 立てる問い | 精度の要求 |
|---|---|---|
| 診断テストとして | 陽性か、陰性か | 高い。現状は足りていない |
| 疼痛減弱テストとして | 操作を加えると、変わるか | 診断名を当てにいかない |
疼痛減弱テストは、その場で加えた操作が症状を変えるかだけを見ます。
変われば、その操作が治療の方向になります。病名を確定させる作業ではありません。
① 骨頭を後方へ押し込む
FABERテスト(パトリックテスト)の肢位で疼痛が出る症例に対して、大腿骨頭を後方へ押し込みながら再検します。
疼痛が減弱する場合、前上方の関節唇損傷を疑います。
理屈は、この記事でここまで書いてきた連鎖と同じです。
骨頭が前方に座っていれば、FABERの肢位では前上方の関節唇と関節包に伸長と圧が集中します。後方へ戻せば、そこが緩みます。
つまりこの操作は、前述した骨頭の上前方偏位を外から一時的に戻して、症状が変わるかを見ていることになります。
減弱するなら、そのまま治療の方向が決まります。バンドを使って骨頭の後方滑りを補助する方法は、別記事にまとめています。
→「【保存版】股関節の前方つまり感の原因と改善方法を徹底解説」
② 骨盤後傾を誘導する
同じくFABERの肢位で、骨盤を後傾方向へ誘導して再検します。
骨盤が後傾すると、寛骨臼も一緒に後方へ回ります。前壁が退くので、前方で当たる位置と、伸長される関節唇の部位が変わります。
ここから先は、私の臨床上の解釈です。
【私見】 骨盤後傾で疼痛が減弱する場合、伸長されている部位が移動したことで痛みが引いた、と考えています。上前方よりは前方寄りの病変を示唆し、範囲としては比較的狭い可能性があると見ています。
一方、後傾を誘導しても痛みが変わらない場合は、病変が前方にも及んでいる可能性を考えます。その場合、経過としては少し時間がかかると予測して患者さんに説明しています。
これは検証された指標ではなく、経験的な読み方です。
2つの操作の読み方
| 操作 | 減弱する | 減弱しない |
|---|---|---|
| 骨頭を後方へ押す | 前上方の関節唇損傷を疑う | 別の要因を探す |
| 骨盤後傾を誘導 | 前方寄り。範囲は狭い可能性(私見) | 前方にも及ぶ。時間がかかる(私見) |
この使い方の限界
念のため、はっきり書いておきます。
- 病変部位を確定する方法ではありません。 画像で裏づけられるものでもありません
- 減弱したからといって、そこが唯一の痛みの発生源だとは言えません
- 使える価値は1つだけです。その場で、次に何をするかが決まること
減弱する操作が見つかれば、それが介入の入口になります。見つからなければ、別の入口を探すという判断ができます。 そこまでです。
運動療法
中殿筋:側臥位での外転
外転筋のトレーニングとして側臥位での外転を用いますが、やり方に条件があります。
- 側臥位をとります
- お腹を浮かせて、骨盤を固定します
- その状態で股関節を外転させます
なぜお腹を浮かせるのか
骨盤が固定されていないと、外転の途中で骨盤ごと動いてしまいます。 これでは股関節の外転ではなく、骨盤の動きを見ていることになります。
お腹を浮かせると体幹の側部が働き、骨盤がその場に留まります。そこで初めて、股関節の外転として中殿筋に入ります。
この条件は、目的から考えると当然のものです。中殿筋を鍛える目的は、立位で骨盤を保持することにあります。 骨盤が動いてしまう条件下で回数をこなしても、狙った機能は育ちません。
回数より、骨盤が止まったまま何回できるかで見てください。崩れた時点がその日の上限です。
まとめ
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| ガイドライン | 股関節OAのCoreは患者教育+陸上での運動 |
| 膝との違い | 関節内注射・水中運動は股関節では推奨に至っていない |
| 立ち方 | 片側への荷重がトレンデレンブルグ肢位を作る |
| 連鎖 | 相対的内転位 → 被覆率低下 → 上前方偏位 → 進行 |
| 痛みの部位 | 上外側なら大腿直筋反回頭を疑う |
| 評価 | 立位で足部に対する骨盤の位置を見る |
| 疼痛減弱テスト | FABER肢位で骨頭を後方へ押す/骨盤後傾を誘導し、変わるかを見る |
| 中殿筋ex | 側臥位で外転。お腹を浮かせて骨盤を固定してから |
メニューを増やす前に、1日でいちばん長く取っている姿勢を変える。ここが保存療法の起点になると考えています。
参考文献
Bannuru, R. R., Osani, M. C., Vaysbrot, E. E., et al. (2019). OARSI guidelines for the non-surgical management of knee, hip, and polyarticular osteoarthritis. Osteoarthritis and Cartilage, 27(11), 1578–1589. doi:10.1016/j.joca.2019.06.011
Reiman, M. P., Goode, A. P., Cook, C. E., Hölmich, P., & Thorborg, K. (2015). Diagnostic accuracy of clinical tests for the diagnosis of hip femoroacetabular impingement/labral tear: a systematic review with meta-analysis. British Journal of Sports Medicine, 49(12), 811. doi:10.1136/bjsports-2014-094302
注意事項
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、医療行為や診断・治療の代替ではありません。
痛み・しびれ・炎症・外傷などの症状がある方、医師から運動制限を指示されている方は、実施前に必ず医師または理学療法士にご相談ください。実施中に体調の異変を感じた場合は直ちに中止し、医療機関を受診してください。
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