アキレス腱障害と足部の回内・回外|切り替えを取り戻す

アキレス腱障害に対して、腱そのものへの介入は確立されつつあります。エキセントリック運動やheavy slow resistanceには、比較試験の蓄積があります。

一方で、同じプロトコルをやっても反応が分かれるという経験もあると思います。

この記事では、足部が腱にかけているストレスの側を見ます。腱を鍛える前に、腱が余計な仕事をせずに済む足部を作れているか、という視点です。

対象読者: 理学療法士・アスレティックトレーナーなど、足部・足関節のリハビリに携わる専門職


足部の動きは、部位ごとに逆を向く

回内・回外は「足が内側に倒れる/外側に起きる」という平面的な理解で語られがちですが、実際には3つの面が同時に動きます。 しかも部位によって方向が違います。

スピネーション(アーチ挙上・足部剛性の向上)

部位 矢状面 前額面 水平面
後足部 背屈 回外 外転
中足部 底屈 回内 内転
前足部 底屈 回内 内転

プロネーション(アーチ低下・衝撃吸収)

部位 矢状面 前額面 水平面
後足部 底屈 回内 内転
中足部 背屈 回外 外転
前足部 背屈 回外 外転

ここが要点です

表を縦に見てください。後足部と、中足部・前足部が、すべての面で逆方向を向いています。

つまり足部の中で相対的なねじれが起きています。前後で逆向きに捻られることで、足部は形を変えます。

  • ねじれが強まる(スピネーション) → アーチが挙上し、剛性の高い硬い足になる
  • ねじれが緩む(プロネーション) → アーチが低下し、衝撃を吸収できる柔らかい足になる

足部は、この2つの状態を切り替えられる構造です。 硬い足でも柔らかい足でもなく、局面に応じて切り替えることが機能です。

接地では柔らかく衝撃を吸収し、蹴り出しでは硬くして力を伝える。この切り替えができるかどうかが、臨床で見るべき点になります。


アキレス腱との、どこがつながるか

過度な回内が、ストレス源になりうる

オーバープロネーションがアキレス腱障害の要因のひとつとして挙げられることは、古くから知られています。

Clementらは、ランナーのアキレス腱炎・腱周囲炎について、**過度な回内による腱への「whipping action」**という機序を報告しています(Am J Sports Med, 1984)。

腱が真っ直ぐ引かれるのではなく、鞭がしなるようにねじれながら張力を受けるという捉え方です。

回内の遷延が、下腿内旋を引き延ばす

問題は回内そのものより、いつまで回内しているかです。

接地から立脚初期にかけての回内は、衝撃吸収として必要な動きです。立脚中期以降も回内が続くことが問題になります。

回内が遷延すると、それに伴う下腿内旋も持続します。近位が内旋したまま、遠位では踵骨が回内位にある。この状態でアキレス腱は張力を受けます。

腱に、ねじれ方向の負荷が加わり続けるという構図です。

蹴り出しで剛性が作れないと、腱が代償する

もうひとつは、切り替え側の問題です。

蹴り出しでは、足部が再び回外方向へ切り替わって剛性を作る必要があります。硬い足でなければ、力は地面に伝わりません。

このre-supinationが不足すると、足部は柔らかいまま推進しようとします。すると足りない剛性を、腱と筋の張力で補うことになります。

腱を鍛える前に、腱が代償している理由を見る。 ここが足部を扱う理由です。

つまり必要なのは「回内を止めること」ではありません。回外方向へ切り替える能力を取り戻すことです。


BLACKBOARDを使った3つのセッティング

BLACKBOARDは、前足部と後足部の回内・回外を独立して設定できるボードです。分けて扱えることが、この道具の要点になります。

① 前足部の回内・回外

後足部から分離して、前足部だけを動かします。

見るのは以下です。

  • 前足部そのものの可動性
  • 後足部からの分離ができるか(一緒に動いてしまわないか)
  • 第1列の底屈が出るか
  • windlass機構が働くか

第1列が底屈できないと、母趾側で地面を捉えられません。前足部が回内位に落ちたまま推進することになります。

② 後足部の回内・回外

距骨下関節の可動性を見ます。

  • 回内・回外の可動域
  • 回外への「切り替え」ができるか(可動域があっても、自分で切り替えられるかは別)
  • 回外位で保持させると、後脛骨筋が促通される

可動域と制御は別物です。他動では回外できるのに、自分では切り替えられない症例がいます。そこが介入点になります。

③ 後足部回外+前足部回外(複合)

①と②をスピネーション方向にまとめます。

  • アーチが挙上する
  • 足部の剛性が上がる
  • その状態を保持したまま、カーフレイズや荷重移動へ展開する

ここが最終形です。剛性を作った状態で荷重できるかが、動作につながるかどうかの分かれ目になります。


進め方

段階を飛ばさないでください。

段階 内容
① 評価 どの部位の、どの方向が出ないかを特定する
② 可動性 出ない方向を他動・自動で作る
③ 制御 等尺性保持。その位置を自分で保てるか
④ 荷重・動作 カーフレイズ → 片脚立位 → 歩行・走行

③を飛ばすのが最も多い間違いです。 可動域が出た時点で荷重課題に進むと、動作の中では元の位置に戻ります。保持できるようになってから荷重へという順序を守ってください。


この介入の位置づけ

ここは明確にしておきます。

アキレス腱障害の運動療法として、エビデンスが蓄積しているのはエキセントリック運動とheavy slow resistanceです。 Beyerらはこのふたつをランダム化比較試験で比較しています(Am J Sports Med, 2015)。

足部のコンディショニングは、それに置き換わるものではありません。

位置づけはこうです。

腱への負荷を適正化し、エキセントリックやHSRを効かせるための土台。

足部が切り替えられない状態のまま腱を鍛えても、日常や競技に戻れば同じストレスが再開します。逆に、足部だけ整えても腱の耐久性は上がりません。

両方が要ります。 順序としては、腱への荷重プログラムを進めながら、並行して足部を扱うのが現実的だと考えています。


まとめ

ポイント 内容
足部の構造 後足部と前足部が逆方向に動く。相対的なねじれ
機能 ねじれの強弱で剛性と柔軟性を切り替える
腱への影響① 回内の遷延 → 下腿内旋の持続 → ねじれ張力
腱への影響② re-supination不足 → 剛性が出ず、腱が代償する
介入の目的 回内を止めることではなく、回外へ切り替える能力
進め方 評価 → 可動性 → 制御 → 荷重・動作
位置づけ エキセントリック・HSRを効かせる土台

「回内が強いから抑える」で終わらせず、どの局面で切り替えられていないのかまで降りると、介入の順序が決まります。


参考文献

Clement, D. B., Taunton, J. E., & Smart, G. W. (1984). Achilles tendinitis and peritendinitis: Etiology and treatment. The American Journal of Sports Medicine, 12(3), 179–184. doi:10.1177/036354658401200301

Beyer, R., Kongsgaard, M., Hougs Kjær, B., et al. (2015). Heavy Slow Resistance Versus Eccentric Training as Treatment for Achilles Tendinopathy. The American Journal of Sports Medicine, 43(7), 1704–1711. doi:10.1177/0363546515584760

エクササイズの内容について: 3/16 BLACKBOARD Training 専門家向け基礎実践講習(中足部と足底からの動作連動と代償運動を学ぶ)セミナー配布資料を参考に作成しています。


注意事項

本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、医療行為や診断・治療の代替ではありません。

痛み・しびれ・炎症・外傷などの症状がある方、医師から運動制限を指示されている方は、実施前に必ず医師または理学療法士にご相談ください。実施中に体調の異変を感じた場合は直ちに中止し、医療機関を受診してください。


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