変形性関節症(OA:Osteoarthritis)のリハビリテーションについて

変形性膝関節症

変形性関節症のリハビリテーションについて解説します。

参考文献

Holden, M. A., Nicolson, P. J., Thomas, M. J., Corp, N., Hinman, R. S., & Bennell, K. L. (2022). Osteoarthritis year in review 2022: rehabilitation. Osteoarthritis and Cartilage.

2022-2023年のインパクトファクターが6.576のジャーナルに掲載されたレビュー論文です。

内容

  • 2021年4月1日~2022年3月18日の間に公表された、変形性関節症(Osteoarthritis:OA)のリハビリテーションに関する論文を要約しているレビュー論文
    • リハビリテーションに関するレビュー論文であり、薬物治療や外科的治療(手術など)については記載されていない

リハビリテーションの中核

リハビリの中核となるのは、患者教育、運動、体重コントロールと言われています。

患者教育

膝のOAに対する患者教育だけでは、身体機能改善をもたらす程度が小さいようです。

患者教育と運動を組み合わせることで、痛みと身体機能の短期的な改善がみられています。

具体的にどのような教育が重要なのでしょうか?

引用されていた文献を読んでみました。

患者教育の内容

  • 整形外科医:解剖学、危険因子、治療法、疾患の説明
  • 栄養士:食事量の減少だけでなく、低カロリーでバランスの良い食事
  • 理学療法士:運動の重要性の指導、ストレッチ、筋力トレーニングの指導、適切な姿勢の取り方、個人に合わせた負荷のコントロールの仕方
    • エクササイズの利点が疼痛コントロールと予防にあることを説明(骨や関節の構造そのものが治るわけではないということ)
  • 作業療法士:掃除、しゃがみこみ、物を持ちあげる、座る、寝る、キッチンでの作業、アイロンがけ、浴室での動作など日常生活動作における関節の保護の方法を指導
  • 運動の内容
    • ストレッチ、アイソメトリックトレーニング、アイソトニックトレーニング
    • 自宅での重量負荷を徐々に増加させるためのウエイトの方法について説明し、小冊子を配る
    • 有酸素運動の実施
      • 有酸素運動は、自覚的運動強度(RPE)が6~20段階のうち11~13(楽に感じる~ややきつい)(下図)の運動を1日30~60分、週5回行うように指導
      • 運動の内容は歩行、固定式のサイクリング、ダンス、水泳など好みの運動で実施(痛みを伴う場合にはサイクリングと水泳を行うように指示)
    • レジスタンストレーニングはベンチプレス、スクワット、シーテッドローイング、レッグエクステンション、ショルダープレス、レッグカール、トライセプスプッシュダウン(上腕三頭筋の運動)、カーフレイズ、バイセプスカールを8~12回、2~3セットを週に3回行うように指示
      • この時のRPEは14~17の強度(ややきつい~かなりきつい)で実施

これが全てではありませんが、このような患者教育がされていたようです。

患者教育についての参考文献

Rezende, M. U., Brito, N. L. R., Farias, F. E. S., Silva, C. A. C., Cernigoy, C. H. A., da Silva, J. R., … & Camargo, O. P. (2021). Improved function and strength in patients with knee osteoarthritis as a result of adding a two-day educational program to usual care. Prospective randomized trial. Osteoarthritis and Cartilage Open3(1), 100137.

運動

膝OA患者に対しては段階的に負荷を増加する運動が効果的である良いとされていますが、具体的な内容は記載されていませんでした。

有酸素運動、ストレッチ、筋力トレーニング、ヨガ、ピラティス、太極拳など様々な運動がありますが、基本的には体重を減少させ、膝の痛みを誘発させなければ効果的なのではないかと思っています。

筆者は理学療法士ですが、勤務先のクリニックで処方している運動療法を紹介します。

  • 股関節周囲の可動域訓練(特に内旋):内旋可動域の低下はO脚を助長する可能性
  • 股関節周囲筋力トレーニング(特に外転):股関節外転筋力の低下は膝に負荷のかかる原因となる可能性
  • 膝伸展筋力トレーニング(特に内側広筋):歩行動作、関節へのストレスに影響する可能性

減量

体重を減少させることは、特に肥満の膝OA患者に対する中心的な治療法であると認識されています。

22件のランダム化比較対照試験(RCT)を統合したメタ分析では、痛みを有意に減少させる最も効果的なリハビリテーションは低カロリー食+運動、減量+運動であると言われています。

これらは肥満に対する減量手術に次いで効果的であったと報告されています。

安静にして筋肉が落ちると体重は減少します。しかし筋力低下は将来サルコペニアなどを引き起こす可能性があるので、体重減少のためには運動は欠かせません。

テクノロジーの役割

電話、ウェブ、アプリ、VRなどを用いて運動プログラムや患者教育を提供することで、膝の痛みが減少したとする報告があります。

1対1ではなく、1対複数のものが含まれており、費用対効果が高いことも利点の1つとされています。

補助的な治療

以下に紹介する治療法は、大規模で質の高い研究がされていないためにエビデンスに乏しく、補助的な治療とされています。

しかし実際には、効果的な治療法も含まれていると筆者は考えています。

バイオメカニクス的介入

膝外反装具

膝外反装具は、痛みと機能に対して短期的に有効とされていますが、長期的な効果をみた研究はありません。

基本的にはO脚と呼ばれるような、膝の内側がつぶれる形になることが多いため、X脚の方向に誘導する(外反と言います)装具を着用することで、内側への圧迫ストレスが軽減されることが期待できます。

OA Unloader Knee Braces – Okanagan Pedorthics and Sports Bracing (okaped.com)より転載
外側ウェッジインソール

また、膝の内側への負担を減らすことを期待して、靴にインソールを入れる治療が行われることがあります。

これは外側ウェッジ型のインソールと言い、足底の外側を持ち上げることでX脚の方向に誘導という目的が挙げられます。

運動連鎖といって、足関節のアライメント(骨配列)が膝関節にも影響するなど、一つの関節の動きが他の関節にも影響するという考え方を用いている治療ですね。

http://ashinoonayami.com/2021/08/2910/より転載

外側ウェッジインソールは、15件の研究を含むシステマティックレビューとメタアナリシスにおいて、有効性は認められないという報告がされています。

だからと言って、効果がないとは言えないと思います。大事なのは適応を見極めて使用することだと思っています。

鍼治療や指圧

鍼治療や指圧では、10件とRCTと5件のシステマティックレビューが発表されており、結果は効果があるとする論文もあれば、効果がないとする論文もあるようです。

介入の内容が不明確であること、サンプルサイズが小さいことがあり、知見には限界があるようです。

どの症例には効果があって、どの症例では効果がない、など個々で見極めていく必要があると思います。私も鍼治療には詳しくないので、今後注目していきたいと思います。

電気刺激治療

TENS(経皮的電気刺激)を用いた研究では、疼痛や身体機能の面で短期的な効果が認められているようです。

しかし、プラセボ群とも同様の結果が得られていることから、その効果のメカニズムについては疑問視されています。

レーザー治療

レーザーを用いた治療は、運動と組み合わせることによって痛み、こわばり、機能に対して効果が得られています。

運動+レーザー群は、運動のみ、運動+プラセボレーザー群よりも効果的であったと報告されています。

温泉/泥による治療

温泉や泥による治療は、痛みの軽減、可動域改善、生活の質向上に有効と報告されています。

単純に気持ちいいものであるため、QOLは上がりますね。加えて筋を温めることで可動域改善が得られるのは妥当な結果かと思います。

生活に取り入れるのは良いですが、それだけに留まるのは勧められませんね。

徒手療法

システマティックレビューにおいて、徒手療法によって短期的に痛みの軽減、膝関節可動域の拡大、身体機能の改善をもたらすと報告されています。

Maitlandという手技と、Mulliganという手技の比較では、MulliganモビライゼーションはMaitlandモビライゼーションと比較して痛みと機能スコアの改善に効果的であることが報告されています。

新しい治療法

血流制限トレーニング

四肢の近位部にカフを巻いて血流を制限しながらトレーニングを行うことは、筋力や筋量を増加させる可能性があることから、OAの治療にも効果的である可能性が考えられています。

正確な作用機序は不明ですが、筋肥大を誘発する生化学/生理的な変化が促進される可能性があると考えられています。

膝OAの患者さんに有効かどうかはまだ明らかになっていないとのことです。

まだ文献数が少ないので、質の高いランダム化比較対照試験(RCT)を行う必要があると記載されていました。

わざわざ血流制限をしなくても、痛みを増強させない方法で筋力を増加する方が簡便で良いのではないか、というのが私の見解です。



以上、参考になったら嬉しいです。

質問受け付けておりますので、ぜひコメント下さい。

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