腹圧は赤ちゃんに学ぶ|ドローインではなく、張ったまま呼吸する

腹圧は赤ちゃんに学ぶ|ドローインではなく、張ったまま呼吸する 理学療法

先日、勉強会で運動発達から体幹の安定を考える内容を扱いました。

出発点はシンプルです。赤ちゃんは、誰にも教わらずに腹圧を身につけます。 「お腹をへこませて」とも「腹横筋を意識して」とも言われません。それでも生後数ヶ月で、首を起こし、寝返り、座れるようになる。

では、そのとき赤ちゃんのお腹では何が起きているのか。この記事ではそこから、腹圧のつくり方と、その腹圧を保ったままの呼吸を整理します。

対象読者: 体幹トレーニングや呼吸の指導に関わる理学療法士・トレーナー

この考え方は、チェコのKolářらが発達運動学をもとに体系化したものです。記事では特定の手法名よりも、中身のほうを扱います。


赤ちゃんは、教わらずに腹圧を手に入れる

生後3ヶ月の背臥位

生後3ヶ月の赤ちゃんを仰向けにすると、股関節と膝を90°ほど曲げて、脚を持ち上げたままでいられます。

このとき、背中は胸腰移行部から仙骨まで均等に床に着いています。 腰の下に隙間はできません。持ち上げた脚の重さを、腰を反らせずに腹壁の張りで支えているということです。

約4.5ヶ月で、前後の安定が完成する

Frankら(2013)は、発達の順序をこう整理しています。

時期 起きていること
約4.5ヶ月 矢状面の安定化(脊柱・骨盤・胸郭)が確立する
その後 寝返り・方向転換・這う・四つ這いなど、回旋を含む動きへ進む
約6ヶ月 腹式呼吸と胸式呼吸が協調し、横隔膜が呼吸と姿勢の二重の役割を担い始める

まず前後の安定をつくり、その上に回旋を乗せる。 順番が決まっています。

そして6ヶ月の項目が、この記事の中心になります。横隔膜が、息をする筋であると同時に、姿勢を支える筋でもある。 赤ちゃんはこの2つを、同時にこなせるようになっていきます。


ドローインではなく、全周に張る腹圧

目指すのは「へこませる」ではない

体幹の安定というと、下腹部をへこませるドローインを思い浮かべる人が多いと思います。腹横筋を単独で収縮させる方法です。

ここで扱う腹圧は、それとは違います。

ドローイン ここで扱う腹圧
腹壁 内へ引き込む 全周に張る
働く筋 腹横筋を単独で狙う 腹斜筋まで含めて同時に働く
腹腔の形 径が小さくなる 径を保ったまま内圧が上がる

後者はブレーシングと呼ばれるものに近い状態です。

腹腔を円筒に見立てた模式図2枚の比較。上に横隔膜、下に骨盤底筋、周囲を腹壁が囲む。ドローインでは腹壁の前面が内へ引き込まれて円筒が細くなる。全周に張る腹圧では、横隔膜と骨盤底筋が向かい合い、腹壁が前・横・後ろへ均等に張る

力学的にも、ブレーシングのほうに理がある

Grenier と McGill(2007)は、健常男性8名で、腹部を引き込む方法と、腹筋群を同時に収縮させる方法(ブレーシング)を比べました。

結果
ブレーシングの効果 シミュレーション上、脊柱の安定性が32%向上(腰椎への圧縮は15%増)
ブレーシングの安定性に対する腹横筋の寄与 0.14%

著者らは、腹部の引き込みや腹横筋の単独収縮で安定性を高める力学的な根拠は見当たらないと結論しています。

ただし8名の健常男性で、モデルによる計算を含む研究です。腰痛のある人にそのまま当てはまるとは限りません。

腹圧そのものが、腰椎を硬くする

Hodgesら(2005)は、横隔膜を電気で刺激して、腹筋や背筋を働かせずに腹圧だけを上げる実験をしました。

結果、腰椎の剛性が安静時の8〜31%上がりました。 上がり方は、腹圧の上昇と比例していました。

対象は3名です。それでも、筋の収縮とは別に、腹圧そのものに支える力があることを示した点に意味があります。

では、ドローインは要らないのか

要らないとは思っていません。 下腹部の感覚が分からない人には、へこませる練習が「そこに筋がある」と気づく入口になります。

ただ、それは到達点ではありません。 感じられるようになったら、次は全周に張る腹圧へ進めます。

後述する評価では、腹壁が内へ引き込まれることは「代償」に数えられます。 目指す状態と逆の反応だからです。


いちばん基礎で、いちばん難しい呼吸

腹圧を保ったまま、腹式呼吸をする

ここが勉強会でいちばん時間をかけたところです。

  1. 全周に張る腹圧をつくる
  2. その腹圧を抜かずに、腹式呼吸をする
  3. 息は背中側へ送る——胸郭の後ろと、腹壁の後外側が広がるように

腹圧をつくるだけなら、息を止めれば簡単です。腹圧を保ったまま呼吸を続けるのが難しい。

身体は本来、これをやっている

Hodges と Gandevia(2000)は、腕を繰り返し動かして体幹を揺さぶったときの横隔膜と腹筋の活動を記録しました。

  • 横隔膜と腹横筋は持続的に働き続け、そこに呼吸のリズムと腕の動きのリズムが上乗せされていた
  • 腹圧は、腕の動きによる反力に比例して高まっていた

著者らの解釈はこうです。横隔膜と腹筋の同時収縮で腹圧を持続的に保ち、吸気と呼気は、横隔膜と腹筋が反対に働いて「圧のかかった腹腔の形」を変えることで行われている。

腹圧を保つことと、息をすることは、本来同時に起きている。 この呼吸法は、それを意識的にやり直す練習だと考えています。

それでも難しい理由

Hodgesら(2001)は、呼吸の要求を高めると何が起きるかを調べました。死腔を増やして呼吸を苦しくした状態で腕を動かすと、

横隔膜の姿勢的な活動が、減少するか消失した

呼吸と姿勢は、同じ筋を取り合っています。 息が苦しくなれば、横隔膜は姿勢より呼吸を優先します。

腹圧を保ったまま呼吸するのが難しいのは、この取り合いを両立させる必要があるからだと思います。

腰痛のある人では、横隔膜の動きが違う

Kolarら(2012)は、慢性腰痛の18名と健常者29名を、動的MRIで比べました。上下肢に抵抗をかけながら安静呼吸をしたとき、腰痛群では横隔膜の動きが小さく、位置が高かったと報告しています。

症例対照研究なので、どちらが原因かは分かりません。 ただ、腰痛のある人で呼吸と姿勢の両立に問題が出ている可能性は示しています。

練習の手順

座位で行います。

  1. 下部肋骨の横から後ろ、腹壁の後外側に手を当てる
  2. その手を押し返すように息を吸う
  3. 押し返した状態を保ったまま、息を吐く
  4. 慣れたら、お腹の全周に向かって吸う・吐くを繰り返す

よく出る代償

代償 何が起きているか
前だけ膨らむ 後外側へ広がらず、腹部の前面だけが突き出る
胸郭が上がる 首や肩の呼吸補助筋で吸っている
リブフレア 下部肋骨が前へ開いて浮き上がる
腰が反る 胸郭を上げる代わりに脊柱の伸展で吸っている

リブフレアへの介入は、別記事で扱っています。

→「リブフレア(肋骨の開き)の改善|壁を使った呼吸エクササイズ」


評価:2つのテスト

勉強会では、発達段階に対応した機能テストのうち2つを練習しました。Kobesovaら(2020)が、発達段階に対応する11の機能テストとして提案したものに含まれます。

① 横隔膜のテスト

座位で、検者が後ろから下部肋骨の肋間と腹壁の後外側を触れます。 上の練習の手順と同じく、指を押し返すように吸ってもらい、押し返したまま保ち、全周で呼吸してもらいます。

正常 代償
下部肋骨が横と後ろへ均等に広がる 呼吸補助筋が過剰に働き、胸郭と肩甲帯が上がる
腹壁の後外側が、吸気でも呼気でも張ったまま保たれる 前だけ突き出る、あるいは腹壁が引き込まれる
胸郭が上へ引き上がらず、下に留まる 反り腰で代償する

② 腹腔内圧のテスト

2つの肢位で見ます。

3ヶ月の背臥位:股関節・膝90°屈曲で、最初は検者が下肢を支え、支えを少しずつ減らしていきます。

正常 代償
横隔膜と骨盤底筋が向かい合い、腹壁が全周に均等に広がる 腹直筋が過剰に働き、下腹部に溝ができる
胸郭・骨盤がニュートラル 腹部の外側がへこむ
骨盤前傾と腰椎の過前弯、リブフレア

座位:上前腸骨棘(ASIS)の内側から、背側(第5腰椎の方向)へ指で圧迫します。

正常 代償
鼠径部の上の腹壁が外・前へ広がり、指を押し返す 下腹部の張りが足りず、指が内へ引き込まれる
脊柱が軸方向に伸びたまま保たれる 腹直筋上部が過剰に働く/骨盤後傾や腰椎の過伸展

「指を押し返せるか」がこのテストの要点です。ドローインでへこませる人は、ここで指が沈みます。

【注意】 このテスト群は、2020年に「新しい検査プロトコルの提案」として発表されたものです。検者間の一致度など、信頼性の検証について私は確認できていません。所見の記録と、介入前後の比較に使う道具として扱っています。


3ヶ月から6ヶ月へ、負荷を上げていく

腹圧を保ったままの呼吸を土台にして、発達の順に肢位を進めていきます。

進むほど、支持面が狭くなり、重心が高くなり、重力に抗う要求が増えます。

発達肢位の3つの模式図。生後3ヶ月の背臥位は股関節と膝を90度に曲げて脚を持ち上げる。生後3ヶ月の腹臥位は両肘と恥骨の三点で支える。生後6ヶ月の腹臥位は手掌と大腿の遠位部で支え、体幹を高く起こす

3ヶ月の背臥位

最初の肢位です。

  • 股関節90°屈曲・軽度外転・外旋、膝90°屈曲
  • 胸腰移行部から仙骨までを床に着けたまま、腹圧を保って呼吸する
  • 下肢の重さを、腹壁の張りで支える
代償 修正の方向
リブフレア 呼気で下部胸郭を下へ引き下げる
腰の下に隙間ができる(腰椎の過前弯) 胸腰移行部を床に着けたまま腹圧をつくる
首がすくむ、顎が上がる 後頭部を頭の方向へ伸ばす

3ヶ月の腹臥位

うつ伏せで、両肘と恥骨の3点で体を支えます。

  • 肘で床を前下方へ押し返す
  • 頸部だけでなく、上位胸椎まで一直線に伸展する
  • 前鋸筋と僧帽筋下部が働き、肩甲骨が胸郭に密着する
代償 修正の方向
肘が後ろへ引ける 肘で床を前下方へ押し返し、胸骨を前上方へ導く
すくみ肩(僧帽筋上部で支える) 肩の表層の力を抜き、前鋸筋で支える
顎が出る(頸椎の過伸展で頭の重さに耐える) 伸展を上位胸椎まで分散させる

4ヶ月から5ヶ月:前後の安定の上に、回旋を乗せる

前述のとおり、約4.5ヶ月で矢状面の安定化が確立し、そこから回旋を含む動きへ進みます。5〜6ヶ月には寝返りが出てきます。

練習でも同じ順序をとります。3ヶ月の肢位で腹圧を保ったまま呼吸できるようになってから、片側の支持や体幹の回旋を加えていきます。

前後の安定がないまま回旋を加えると、腰や首で代償します。 順番を飛ばさないことが要点です。

6ヶ月の腹臥位

手掌と大腿の遠位部で体を支え、体幹を高く起こします。支持面はさらに狭く、重心は高くなります。

目的は、重力に抗った体幹の伸展と支持、そして頭部や四肢を体幹から切り離して動かせるかの確認です。

正常 代償
恥骨・腸骨稜・腹壁が連動して、腹部の円筒が崩れない 胸腰移行部で折れ曲がる(局所的な反り腰)
肩甲骨が安定し、両手に均等に支持が乗る 脊柱起立筋の過活動
脊柱全体がなめらかに伸展する 首がすくみ肩甲骨が上がる、翼状肩甲

エビデンスは、どこまであるか

正直に書いておきます。

状況
腹圧が脊柱を支えること 生理学研究で裏づけがある(Hodges 2005 ほか)
横隔膜が姿勢の役割を持つこと 裏づけがある(Hodges & Gandevia 2000 ほか)
ブレーシングが引き込みより力学的に有利なこと 研究がある(Grenier & McGill 2007、ただし小規模)
発達の順序をなぞる練習が、他の体幹トレーニングより効果的か 言い切れる段階ではない

この考え方に基づく介入研究は増えていますが、対象も方法もさまざまです。私が確認した範囲では、ほかの体幹トレーニングより優れていると結論できるだけの材料はまだありません。

機序には筋が通っている。効果の比較はこれから。 そう位置づけています。


私見

【私見】 勉強会でいちばん学びが大きかったのは、応用の肢位ではなく、いちばん基礎の呼吸でした。

腹圧をつくる、腹式呼吸をする。それぞれは簡単です。腹圧を保ったまま、背中側へ息を入れるとなった途端に、多くの人ができなくなりました。前だけ膨らむか、胸が上がるか、腹圧が抜けるか。

Hodgesらの研究を読むと、それも当然だと思えます。呼吸と姿勢は、同じ筋を取り合っているからです。

だから、肢位を先に進めるより、3ヶ月の背臥位でこの呼吸ができるかに時間を使う価値があると感じています。土台ができていない状態で肢位を上げても、代償が増えるだけです。

【私見】 ドローインについて、以前「自家製コルセット」として紹介したことがあります。今の考えでは、ドローインは下腹部を感じるための入口であって、目指す状態ではありません。 感じられるようになったら、全周に張る腹圧へ進めてください。


まとめ

論点 内容
出発点 赤ちゃんは教わらずに腹圧を身につける
発達の順序 約4.5ヶ月で矢状面の安定、約6ヶ月で横隔膜が呼吸と姿勢の二重の役割(Frank 2013)
目指す腹圧 ドローインの引き込みではなく、腹斜筋まで入って全周に張る腹圧
力学 ブレーシングで安定性32%向上、腹横筋の寄与は0.14%(Grenier & McGill 2007)
腹圧そのもの 筋を働かせずに腹圧だけ上げても、腰椎の剛性が8〜31%上がる(Hodges 2005)
基礎の呼吸 腹圧を保ったまま腹式呼吸、息は背中側へ
身体の実際 腹圧を保ちつつ、腹腔の形を変えて呼吸している(Hodges & Gandevia 2000)
難しい理由 呼吸の要求が上がると、横隔膜の姿勢的な活動が減る(Hodges 2001)
評価 横隔膜のテストと腹腔内圧のテスト。指を押し返せるか
負荷の漸増 3ヶ月背臥位 → 3ヶ月腹臥位 → 回旋 → 6ヶ月腹臥位。順番を飛ばさない
エビデンス 機序には裏づけ。他の方法より優れるかは、まだ言えない

参考文献

  • Frank C, Kobesova A, Kolar P. Dynamic neuromuscular stabilization & sports rehabilitation. Int J Sports Phys Ther. 2013;8(1):62-73.
  • Kobesova A, Davidek P, Morris CE, Andel R, Maxwell M, et al. Functional postural-stabilization tests according to Dynamic Neuromuscular Stabilization approach: proposal of novel examination protocol. J Bodyw Mov Ther. 2020;24(3):84-95.
  • Grenier SG, McGill SM. Quantification of lumbar stability by using 2 different abdominal activation strategies. Arch Phys Med Rehabil. 2007;88(1):54-62.
  • Hodges PW, Eriksson AE, Shirley D, Gandevia SC. Intra-abdominal pressure increases stiffness of the lumbar spine. J Biomech. 2005;38(9):1873-80.
  • Hodges PW, Gandevia SC. Changes in intra-abdominal pressure during postural and respiratory activation of the human diaphragm. J Appl Physiol. 2000;89(3):967-76.
  • Hodges PW, Heijnen I, Gandevia SC. Postural activity of the diaphragm is reduced in humans when respiratory demand increases. J Physiol. 2001;537(Pt 3):999-1008.
  • Kolar P, Sulc J, Kyncl M, Sanda J, Cakrt O, Andel R, et al. Postural function of the diaphragm in persons with and without chronic low back pain. J Orthop Sports Phys Ther. 2012;42(4):352-62.

注意事項

本記事は、運動発達の考え方にもとづく体幹の評価と練習について、勉強会の内容と文献を整理したものです。特定の治療効果を保証するものではありません。

記載したテストは、信頼性の検証が十分とはいえない段階のものです。 評価の記録や介入前後の比較として使ってください。

腰痛や呼吸器の疾患がある方、妊娠中の方、腹部の手術後の方は、腹圧を高める練習の前に必ず医師に相談してください。 練習中に痛み・息苦しさ・めまいが出た場合は、すぐに中止してください。

本記事の内容に基づく自己判断により生じた事故や健康被害について、当方は一切の責任を負いかねます。


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