肩関節周囲炎で患者さんが最も困るのが夜間痛です。「夜中に痛みで目が覚める」という訴えは、日中の可動域制限よりも生活の質を落とします。
ただ、夜間痛はひとつの現象ではありません。 炎症性か非炎症性かで、やるべきことが正反対になります。ここを見極めずに介入すると、炎症を煽るか、逆に必要な可動域訓練を先送りすることになります。
この記事では、夜間痛の機序から見極めの所見、時期別の治療までを整理します。
対象読者: 理学療法士・作業療法士など、肩関節のリハビリに携わる専門職
夜間痛は何で起きているか
夜間痛の背景にある疾患は、腱板断裂、肩峰下滑液包炎、腱板疎部損傷、滑膜炎、上腕二頭筋長頭腱炎などです。
ただしこれらを持つ患者さん全員に夜間痛が出るわけではありません。 疾患名だけでは夜間痛の有無を説明できないということです。
夜間痛を生んでいる直接の要因は4つに整理できます。
| 要因 | 内容 |
|---|---|
| 滑膜の炎症 | 炎症そのものによる疼痛 |
| 肩峰下圧の上昇 | 肩峰下スペースの内圧が上がる |
| 阻血 | 流入量の増加と流出障害 |
| 骨内圧の上昇 | 骨内の圧が上がる |
滑膜の炎症に対しては、キシロカイン(局所麻酔)やケナコルト(ステロイド注射)といった医科の対応が中心になります。理学療法が関与できるのは残る3つです。
肩峰下圧の上昇
原因① 骨頭の上方化
骨頭が上方へ偏位すると、肩峰下スペースが狭くなり圧が上がります。
原因② 軟部組織の変化
烏口上腕靭帯(CHL)の肥厚、肩峰下滑液包の腫脹、腱板損傷。これらに加えて、三角筋・棘上筋・肩峰下滑液包・CHLといった組織間の癒着が肩峰下圧を押し上げます。
滑走性が失われると、スペースそのものは変わらなくても内圧が上がる、という理解です。
阻血・骨内圧の上昇
流入量が増え、流出が阻害される状態です。
後方タイトネスによる静脈還流の阻害、そして自律神経の影響が関与します。副交感神経優位になると血管が拡張し、炎症性サイトカインが流入します。夜間に痛みが強くなるのはこの機序と整合的です。
日中は交感神経優位で血管が収縮していますが、就寝時に副交感神経優位へ切り替わると流入が増える。ここに流出障害が重なると圧が上がります。
炎症性か非炎症性かを見極める
ここが臨床判断の分岐点です。
| 所見 | 炎症性 | 非炎症性 |
|---|---|---|
| 腫脹 | あり | なし |
| 熱感 | あり | なし |
| 日中の痛み | あり | なし |
| 動作時の易刺激性 | 強い(うずくまるような痛み) | なし |
| 痛みの出方 | 安静時にも持続 | 一定の動作でのみ(伸展+外旋など) |
患側を下にした側臥位で痛い場合
これは非炎症性の可能性が高い所見です。
患側を下にすると肩関節が内転位で保持されます。内転位では上方の組織(肩峰下滑液包、棘上筋腱、CHL)が伸張され、関節内圧の上昇と血流量の低下が起こります。
炎症そのものではなく、肢位による圧と血流の問題です。だからポジショニングで対応できます。
回旋可動域が判別の手がかりになる
この見極めには、客観的な裏づけがあります。
赤羽根らは肩関節周囲炎100例を非夜間痛群・夜間炎症群・夜間拘縮群の3群に分け、X線所見と可動域を比較しています(理学療法学, 2017)。
| 比較 | 結果 |
|---|---|
| 3群間 | AHI、HHD、屈曲可動域は有意差なし |
| 夜間拘縮群 vs 非夜間痛群 | 外旋・内旋域が減少、GHAが増大 |
| 夜間炎症群 vs 非夜間痛群 | AHI/HHD比が減少、GHAが増大 |
| 夜間拘縮群 vs 夜間炎症群 | GHAが増大 |
臨床的に重要なのは次の2点です。
① 屈曲可動域では判別できない。 3群間で有意差がありませんでした。屈曲だけ測っても夜間痛の有無や性質は分かりません。
② 回旋可動域が分岐点になる。 炎症を起因とする場合は回旋域が比較的保たれる一方、拘縮を起因とする場合は回旋可動域が減少します。
つまり「夜間痛があって、回旋がしっかり残っている」なら炎症を、「夜間痛があって、外旋・内旋が出ない」なら拘縮を先に疑う、という読み方ができます。
③ どちらの群も肩甲骨が下方回旋位。 夜間炎症群・夜間拘縮群ともにGHAが増大していました。夜間痛の背景に肩甲骨アライメントの問題があるということで、肩甲骨へのアプローチはどちらの病態でも外せません。
また、夜間炎症群でAHI/HHD比が減少していた点は、骨頭の上方化による肩峰下圧の上昇という前述の機序と整合します。
その他の評価
- レントゲン:骨頭の上方偏位、肩甲骨の下方回旋
- 触診:三角筋のhardnessの有無
- アライメント:肩甲骨の外転・前傾
- 可動性:1st外旋、結帯、内転可動域
可動域の目標値としては1st外旋35°、結帯L4を目安に置いています(後述)。
炎症期の治療
ポジショニング指導
伸展・外旋位を避けることが基本です。
- 肘の下に枕を入れる
- 手とお腹の間にタオルを挟む
- 抱き枕を使用する
肩が後方へ落ちる肢位を作らないことが狙いです。夜間痛の訴えに対して、まずここを整えるだけで眠れるようになる症例は少なくありません。
あわせて、屈曲可動域を維持する目的で1日5回程度動かすよう指導します。安静一辺倒にしないという意味です。
日常動作で避けるもの
ズキッと痛んでうずくまるような動作は無理をしないほうが炎症は治まりやすい傾向にあります。一方で、痛みのない動作は動かしたほうがよいとされています。「動かすか動かさないか」ではなく、動作ごとに分けて指導します。
特に問題になるのが後ろに置いてあるものを取る動作です。
水平外転+内旋+伸展が強制されるため、前方組織への伸張ストレスとインピンジメントが同時に起こります。
私見です。 この痛みを訴える方は肩甲骨内旋位を取りやすく、その背景には小胸筋のタイトネスや、三角筋後部・棘下筋・小円筋といった後方タイトネスがあることが多いと感じています。したがって肩甲骨内転と体幹回旋の可動性、骨頭アライメント、後方タイトネスの改善が対応の軸になります。
徒手療法
肩甲骨まわり
- 小胸筋の柔軟性改善:徒手操作、肩甲骨モビライゼーション
- 三角筋の緊張を落とす
棘上筋・棘下筋
隣接組織との滑走性を出すことが目的です。
- 棘上筋:肩甲上神経、subacromial fat pad、僧帽筋上部線維、棘下筋との間
- 棘下筋:棘下切痕の脂肪体、菱形筋、小円筋との間
棘上筋へのアプローチは3通り使い分けます。
| 方法 | |
|---|---|
| ① リリース | 肩甲骨挙上位で僧帽筋上部線維を緩めた状態で実施 |
| ② 筋ストレッチ | 前部線維:内転+伸展+外旋/後部線維:内転+伸展+内旋 |
| ③ 筋収縮 | 前部線維:外転+屈曲+内旋/後部線維:外転+屈曲+外旋 |
僧帽筋上部線維は、肩甲帯の挙上−下制を軽く反復して緩めます。それで落ちない場合は、僧帽筋上部線維と胸鎖乳突筋の間をリリースします。副神経のリリースです。
肩峰下の減圧
肩峰下アーチの直下に対し、やや尾側に牽引をかけながらリリースします。減圧の方向を作りながら操作するのが要点です。
CHLへのアプローチ
- 烏口突起基部のリリース
- 内外旋しながら小結節周囲のリリース(肩甲下筋)
- 内外転しながら大結節周囲のリリース(棘上筋)
内外旋ROMの改善
骨頭のobligate translationを止めながら内外旋させます。内旋時なら後方へ押しながら、かつ関節窩に対して垂直に圧を加えるのがポイントです。
その他
- 烏口突起に付着する上腕二頭筋短頭・烏口腕筋の共同腱と、肩甲下筋の間のリリース
- 上腕二頭筋長頭腱と腋窩神経周囲の癒着はがし(腋窩神経は結節間溝に流入する)
- 三角筋をつまんだ状態で肘の屈伸、肩関節の内外旋
拘縮期・緩解期
炎症が治まってきたら、痛みの比較的少ない方向から可動域訓練を進めます。
経験上、内旋方向から痛みが減少していくことが多く、外旋方向は易刺激性が出やすいです。最終域で痛みを訴える場合は、拘縮性の疼痛を疑います。
評価
1st、2nd、3rdなどあらゆる肢位で可動域を確認し、拘縮のある部位を特定します。
その動きの中で、同じ部位が痛いのかどうかは重要な所見です。 同じ部位に痛みが出るなら、その部位が可動域制限の要因になっていると考えられます。
obligate translationをどう扱うか
拘縮が残っていると、obligate translationが起こりやすい状態になります。
| obligate | 症状の出方 |
|---|---|
| あり | 痛みが残りやすい |
| なし | 痛みはないが、硬くて上がらない |
つまり、痛みを取りたいのか、可動域を広げたいのかで介入の狙いが変わります。主訴を捉えることが先です。
脊柱アライメント
骨盤後傾−腰椎後弯−胸椎後弯−頭部前方位のアライメントでは、肩関節の屈曲制限が生じます。
以下の条件で挙上させ、変化を確認します。
- 骨盤前傾位で挙上
- チンインで挙上
- 胸椎伸展位で挙上
- 肩甲骨内転位で挙上
その他の所見
- 烏口肩峰アーチに指を置き、大結節がC-A archに潜り込むか
- 肩峰下滑液包に癒着があると、大結節が潜り込んでいかない
- 屈曲時のシュラッグサイン(腕と頭の間に隙間ができない)
- 僧帽筋中部・下部線維の機能不全、GH関節の拘縮、筋力低下によって生じる
治療
- 肩峰下滑液包(腱板付着部)のリリース
- 80〜120°、大結節が肩峰下を通過する程度の可動域がある場合に実施
- 四つ這いで肩屈曲:おしりを後ろに下げるだけ
- obligateの改善:側臥位で肩水平内転位にし、腕の下に枕を入れる
- 棘下筋と小円筋の柔軟性改善。小円筋は挙上位の可動域拡大に特に重要
- obligate translationによるインピンジメント
- 伸展内旋ROMの改善が重要。棘下筋とその下の疎性結合組織の滑走性を出すと、結果的に後方タイトネスが改善しobligateが減る
- 肩甲骨後傾の可動性改善:肩甲挙筋、小胸筋のほぐし
- 外転可動域制限(90°以上ある人が対象)
- 側臥位で患側を自分の肘に乗せ、外転を動かしながら広背筋・大円筋のリバーステストを実施。評価と治療を同時に行う
- 棘上筋の訓練:側臥位で外転に抵抗する
- 棘上筋を触って意識させ、大結節が肩峰下を通過する様子を触診する
- 1st外旋の改善
- 外旋を伴う挙上を反復し、筋収縮で外旋方向へ誘導する
- 狙いは棘下筋のたわむ機能の改善と、肩甲下筋の緊張低下
- 側臥位で「肩伸展+内転+外旋 ⇔ 屈曲+外転+内旋」に誘導
- そのまま肩やや屈曲位から外転+外旋で棘上筋の収縮を促す
- 僧帽筋下部ex:側臥位でzero positionから、肩甲骨を後傾・内転・上方回旋へ
- 骨頭の後方モビライゼーション
よくある疑問
Q. なぜ内旋動作で前方に痛みが出るのか
CHL由来のものと、obligate translation由来のものが考えられます。骨頭を止めて疼痛が減るならobligate translationと判別できます。
Q. なぜ外旋35°、結帯L4以上を獲得目標にするのか
夜間痛に対する理学療法の臨床成績を扱った報告(田中・林・赤羽根, 整形外科リハビリテーション研究会誌, 2005)で示された水準を、目標値として用いています。
前掲の赤羽根ら(2017)が示した「拘縮を起因とする夜間痛では回旋可動域が減少する」という所見とも方向は一致します。回旋可動域の獲得が夜間痛の消失につながる、という理解です。
Q. 部分断裂のほうが完全断裂より夜間痛が多いのはなぜか
完全断裂では腱が無いために肩峰下圧が上昇しにくい一方、部分断裂では腱が残っているため肩峰下圧が上昇しやすい状態にあるためです。
まとめ
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 夜間痛の4要因 | 滑膜の炎症/肩峰下圧の上昇/阻血/骨内圧の上昇 |
| 理学療法の守備範囲 | 滑膜の炎症以外の3つ |
| 見極めの鍵 | 腫脹・熱感・日中痛・易刺激性の4点 |
| 客観的な指標 | 回旋可動域。屈曲では判別できない |
| 患側下側臥位で痛い | 非炎症性を示唆。ポジショニングで対応可能 |
| 肩甲骨 | 炎症・拘縮どちらの群も下方回旋位。両病態で介入対象 |
| 拘縮期の分岐 | obligateがあれば痛み、なければ硬さ。主訴で狙いを変える |
| 可動域の目標 | 1st外旋35°、結帯L4 |
夜間痛を「炎症だから安静」と一括りにせず、どの機序で圧が上がっているかまで降りると、介入の的が絞れます。
参考文献
赤羽根良和, 永田敏貢, 齊藤正佳, 篠田光俊 (2017). 夜間痛を合併した肩関節周囲炎の臨床的特徴. 理学療法学, 44(2), 109–114. J-STAGE
田中幸彦, 林典雄, 赤羽根良和 (2005). 肩関節周囲炎に続発する夜間痛に対する理学療法と臨床成績. 整形外科リハビリテーション研究会誌, 8, 9–12.
注意事項
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、医療行為や診断・治療の代替ではありません。
痛み・しびれ・炎症・外傷などの症状がある方、医師から運動制限を指示されている方は、実施前に必ず医師または理学療法士にご相談ください。実施中に体調の異変を感じた場合は直ちに中止し、医療機関を受診してください。
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