肩が前に入っている。写真を撮ると自分だけ肩が丸い。ストレッチはしているけれど、しばらくすると戻る。
そういう方に向けた記事です。
戻ってしまうのには理由があります。 巻き肩は「胸の前が硬い」だけの問題ではないからです。
理学療法士として10年、整形外科の現場で姿勢の問題を診てきました。原因になっている筋肉から順に整理します。
巻き肩とは、肩甲骨が前へ滑った状態です
「巻き肩」と言うと肩そのものの問題に聞こえますが、実際に位置がずれているのは肩甲骨です。
肩甲骨が背中の上で、次の3方向へ動いた状態が巻き肩です。
- 前傾(上のふちが前へ倒れる)
- 外転(背骨から離れて外へ滑る)
- 下方回旋(下のふちが背骨側へ回る)
つまり肩甲骨の位置の問題です。ここを押さえておくと、なぜ胸のストレッチだけでは足りないのかが見えてきます。
原因になる4つの筋肉
① 小胸筋 — いちばんの原因
肋骨から烏口突起という肩甲骨の突起に付いています。
ここが縮むと、肩甲骨の前のふちが直接、前下方へ引っぱられます。 前傾と下方回旋がそのまま起こる。位置関係からして、巻き肩に一番効いてしまう筋肉です。
胸の前を伸ばしているつもりでも、大胸筋だけ伸ばして小胸筋が残っていることがよくあります。
② 大胸筋 — 腕ごと内側へ引く
胸の前面から上腕骨に付いています。
肩甲骨に直接は付いていませんが、腕を内側にひねって前へ引く働きがあります。腕がその位置で固定されれば、肩甲骨もついていきます。
③ 広背筋 — 見落とされやすい
背中の筋肉ですが、実は肩甲骨の下のふち(下角)にも付着しています。
ここが硬いと、肩甲骨を下方回旋・前傾の方向へ引きます。作りたい方向と真逆です。
さらに広背筋は腕を内側にひねる働きも持つので、②と同じ方向に効きます。「背中を伸ばしているのに巻き肩が戻る」という方は、ここを疑ってみてください。
④ 押さえる側の弱さ — 前鋸筋と僧帽筋中部・下部
ここが本題です。
①〜③は引っぱる側の筋肉です。一方、肩甲骨を正しい位置に留めておく側の筋肉があります。
| 筋肉 | 働き |
|---|---|
| 前鋸筋 | 肩甲骨を胸郭に沿わせ、上方回旋・後傾させる |
| 僧帽筋中部・下部 | 肩甲骨を背骨側へ寄せ、後傾させる |
ストレッチしても戻るのは、ここが原因であることが多いです。
伸ばして一時的に緩んでも、留めておく力がなければ、数十分で元の位置に戻ります。伸ばす(①〜③)と鍛える(④)は、セットで初めて意味を持ちます。
寝方も見てください
意外に見落とされるのが寝ているあいだの姿勢です。1日の3分の1を占めるので、影響は小さくありません。
横向きで寝る方
下側になった肩が、体重で前へ押し込まれます。 一晩それが続きます。
- 抱き枕を使うと、上側の腕が前に垂れるのを防げます
- 下側の肩は、軽く前に出して肩甲骨の上に乗らないようにすると楽になります
うつ伏せで寝る方
腕を上げた姿勢になりやすく、肩が前に入った状態で固定されます。首もひねり続けることになります。
可能なら仰向けか横向きへ移していくほうが、肩には優しいです。
仰向けで寝る方
肩が浮いて前に落ちる方は、両腕の下に薄いタオルを1枚ずつ入れてみてください。肩甲骨が落ち着きます。
これは臨床での実感です。 寝方を変えるだけで劇的に変わる、ということはあまりありません。ただ、日中どれだけ整えても夜に戻されている方はいます。なかなか変わらない方ほど、確認する価値があると考えています。
場面別のストレッチとトレーニング
続かなければ意味がないので、その場でできるものから並べます。
座ったままできる
デスクワークの合間に向いています。
肩甲骨を寄せる(①〜③の対策 + ④のトレーニング)
- 手を体の後ろで組みます
- 肩甲骨を寄せながら、手をまっすぐ後ろに引きます
- 胸の前が伸びる感覚、肩甲骨の内側を使っている感覚があればOKです
- 10回×3セット
背筋を伸ばし、あごを引いた状態で行うと肩甲骨が寄せやすくなります。
スカプラ△(僧帽筋中部・下部)
- 手を頭の後ろで組みます
- 肘を開きます
- 肩甲骨をしっかり後ろへ寄せます
- 肘を開いたまま、手を頭から後ろへ離します
- 10回×2セット
手を頭から離すとき、頭が前に出ないように注意してください。頭が出ると、肩甲骨ではなく首で動いてしまいます。
ウィンギング
- バンザイのように手をまっすぐ上げます
- 手と肘をなるべく後ろへ引きながら、肩甲骨を後ろへ寄せます
- 10回×2セット
あごを引き、胸を張った状態で行ってください。
壁を使う(小胸筋・大胸筋のストレッチ)
巻き肩でいちばん重要な①小胸筋に届く方法です。
- 壁、できれば壁の角に肘をつけます
- 胸の前の力を抜き、体をひねります
- 胸の前に伸び感があればOKです
- 10〜20秒×3〜5セット
肘の高さを変えると、伸びる場所が変わります。 高くすると小胸筋の上のほう、低くすると下のほうに届きます。いちばん伸びる位置を探してください。
手にしびれが出る場合はすぐにやめてください。 小胸筋の下を神経と血管が通っているためです。
寝ながら行う
床に仰向けになるだけでも、肩の重さで胸の前が伸びます。
ストレッチポールがあれば、背中の下に縦に置いて乗ると、肩甲骨が床に押さえつけられないぶん自由に動きます。巻き肩には相性がいい道具です。
やり方は別記事で詳しく書いています。→「ストレッチポールで猫背・巻き肩を戻す順番|1回10分」
どれくらいで変わるか
毎日続けられれば、1〜2か月で変化を感じられることが多いです。
ただし、いきなり全部やろうとすると肩を痛めたり筋肉痛になったりします。少ない回数から徐々に増やしてください。
続けるコツは、座ったままできるものを1つだけ選んで習慣にすることです。全部やろうとすると、たいてい続きません。
まとめ
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 巻き肩の正体 | 肩甲骨の前傾・外転・下方回旋 |
| 原因① | 小胸筋。烏口突起に付き、肩甲骨を直接引く |
| 原因② | 大胸筋。腕を内側へ引く |
| 原因③ | 広背筋。肩甲骨下角に付き、下方回旋させる |
| 原因④ | 前鋸筋・僧帽筋中部下部の弱さ。留める力 |
| 戻る理由 | 伸ばしても、留める力がなければ戻る |
| 見落とし | 寝方。1日の3分の1を占める |
伸ばすだけ、鍛えるだけでは足りません。引っぱる側を伸ばし、留める側を鍛える。 この両輪で考えると、変わり方が違ってきます。
ご注意ください
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、医療行為や診断・治療の代替ではありません。特定の症状が改善することをお約束するものではありません。
現在肩や首に痛み・しびれがある方は、自己判断で行わず医療機関にご相談ください。実施中に痛みやしびれが出た場合は、直ちに中止してください。
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