復帰期
- ATWY
- プッシュアップ:ナロープッシュアップ、ワイドプッシュアップ、BOSU
- 肩甲骨内転位から外転位まで可動させる
- サイドプランク:脱臼肢位にならないように少し身体を前にかぶせる
- 手をバンザイ、股関節外転、股関節外転位から屈伸
- バードドッグ
- ワイドスタンス、膝浮かし、足を上げて膝だけで、ストレッチポール上で
- 尺取り虫:高這い姿勢から徐々に手で歩いて前に置き、腕立て ⇒ より前方に手を置きに行く
- アブローラー
- お手玉:四つ這い、膝浮かした状態から
- キャスター使用し、少しずつ前方、後方、側方
- 手押し車
- オーバーヘッド:ウォーターバッグ(大)でショルダープレス、オーバーヘッドで体幹側屈
- 競技特異的なトレーニング
ABERへの段階的プログレッション
ABER: ABduction External Rotation(外転外旋位)。肩関節前方脱臼が生じやすい肢位であり、術後リハビリではこの肢位へどう再暴露していくかが焦点になる。
以下はゴールキーパー(GK)を想定した段階付け。
1. 閉鎖性・荷重下(安全域)
- Quadruped rocking → ベアクロール → ウォールウォーク(壁を足で登る)
- プランクからのショルダータップ、プッシュアッププラス(前鋸筋の上方回旋)
- アブローラーは片手ローラー/立位ロールアウトへ
2. 開放性プレス(scapular plane優先)
- ランドマインプレス:外転外旋負荷が最も低く、GK初期プレスの第一選択
- ボトムズアップKBプレス/ウェイターズウォーク:腱板の同時収縮と固有感覚要求が高い
- KBアームバー → ハーフゲットアップ → フルTGU(ABERへの段階的暴露として優秀)
KB: ケトルベル。TGU: Turkish Get-Up。
3. ABERへの適応
ここが本丸。
- 90/90等尺性外旋 → リズミックスタビライゼーション(徒手で多方向摂動)
- 90/90でのバンド外旋エキセントリック → 制動域を段階的に拡大
- 背臥位90/90でのボールドロップキャッチ、壁へのボールタップ
4. GK特異的プライオ
- オーバーヘッドメディシンボールスロー、パンチング(クリア)動作の反復
- 片手パリー模倣 → ダイビング時のリーチ肢位での荷重
- 最終段階でハイボールキャッチ+接触
評価:どこまで進んだかを数値で残す
段階づけを主観で運ぶと、記録が残りません。上肢―肩甲帯―体幹をまとめて見る閉鎖性運動連鎖のテストを2つ使っています。
| やること | 出てくる値 | |
|---|---|---|
| UQYBT | 片手プッシュアップ位で、反対の手を3方向へリーチ | 距離(上肢長で正規化) |
| CKCUEST | プッシュアップ位で、両手の間を交互にタッチ | 15秒間の回数 |
片方は距離、もう片方は回数です。 どちらも支持側の上肢に荷重がかかるので、上の「1. 閉鎖性・荷重下」を安全にこなせる段階が測定開始の目安になります。
UQYBT(Upper Quarter Y Balance Test)
実施方法
- 片手プッシュアップ位。支持手は台の中央、母指を内転させてスタートラインの後ろに揃える
- 反対の手で、支持している腕を基準に 内側 → 下外側 → 上外側 の順にリーチ
- 各方向3回。支持腕を入れ替えて反対側も測る
- 上肢長 = 肩90°外転・肘伸展位で、C7棘突起から最長指の先端まで
- コンポジット =(3方向の合計 ÷ 上肢長×3)× 100
肘の角度は規定されていません。肢位が崩れた時点で試技無効という設計です。
術後例での読み方
術後のリハビリでは、健側という基準が手元にあるのが強みです。
Westrickら(2012)は、支持側が利き手か非利き手かでコンポジットを比較し、左右対称性97.9%を報告しました。左右でほぼ差が出ないテストなので、健側の値を患側の目標として使えます。
ただし上外側だけは対称性95.1%と低めです。上外側の数%の差を異常と判定しないでください。
変化があったと言える幅
Gormanら(2012)の測定誤差から、方向別に6.1〜8.1cmを超えて初めて「本当に変わった」と言えます。上外側6.4cm、下外側6.1cm、内側8.1cm。
再現性がいちばん高いのは上外側(再テストICC 0.92〜0.99)、低いのが下外側(0.80〜0.96)です。左右差を根拠に何か言うなら、上外側のほうが信用できます。
CKCUEST(Closed Kinetic Chain Upper Extremity Stability Test)
実施方法
- 床に36インチ(約91cm)離して2本の線を引き、プッシュアップ位で両手をそれぞれの線上に置く
- 一方の手で反対の手にタッチし、交互に繰り返す
- 15秒間のタッチ数を数える
- 練習1回 → 本試技3回、試技間45秒休憩
【注意】 両手を約91cm離した肢位は、肩関節を水平外転方向へ開きます。前方不安定性に対する術後例では、この手幅が前方への負荷を増やす可能性があります。
手幅を狭めれば文献の基準値とは比較できなくなりますが、個人内の経過を追う目的なら成立します。 そのときは幅を記録して、毎回同じにしてください。
術後例での読み方
絶対値は使いません。 このテストは検証された集団が若年男性に偏っており、女性は膝つき肢位で実施されているため、公表されている基準値を患者に当てるのは無理があります。
使えるのは個人内の変化だけです。最低3タッチを超えて初めて、測定誤差ではない変化と考えます。
2つで測れること、測れないこと
正直に書いておきます。
| 測れる | 閉鎖性運動連鎖で、上肢に荷重をかけたときの安定性 |
| 測れない | ABERへの適応度。開放性のプレスや投球肢位の耐性 |
上の段階づけでいえば、1と2の前半までしか反映しません。 3のABER、4のプライオに進めるかどうかは、これらの数値では判断できません。
そして「◯以上で復帰可」という検証済みの基準は、どちらにもありません。 術後例を追跡した研究がないためです。よく引用される「左右差4cm以上でリスク増」は下肢版で確立された値で、上肢版では検証されていません。
記録の仕方
数値が出るので、カルテにも患者説明にも残せます。 私は次の形で書いています。
| 項目 | 記録すること |
|---|---|
| UQYBT | 3方向の実測値、コンポジット、健側比 |
| CKCUEST | タッチ数、手幅(狭めた場合) |
| 共通 | 測定日、医師の許可範囲、痛みの有無 |
健側比と、前回との差。 見るのはこの2つです。
実施方法の詳細・基準値・このテスト自体の限界は、評価法の記事にまとめています。
→「体幹(コア)機能の評価法ガイド|現場PTが使う6つのテストと臨床での活かし方」
参考文献
- Gorman PP, Butler RJ, Plisky PJ, Kiesel KB. Upper Quarter Y Balance Test: reliability and performance comparison between genders in active adults. J Strength Cond Res. 2012;26(11):3043-8.
- Westrick RB, Miller JM, Carow SD, Gerber JP. Exploration of the Y-balance test for assessment of upper quarter closed kinetic chain performance. Int J Sports Phys Ther. 2012;7(2):139-47.
- Goldbeck TG, Davies GJ. Test-retest reliability of the closed kinetic chain upper extremity stability test: a clinical field test. J Sport Rehabil. 2000;9(1):35-45.
- Tucci HT, Martins J, Sposito Gde C, Camarini PM, de Oliveira AS. Closed Kinetic Chain Upper Extremity Stability test (CKCUES test): a reliability study in persons with and without shoulder impingement syndrome. BMC Musculoskelet Disord. 2014;15:1.
注意事項
本記事は肩関節脱臼術後のリハビリテーションについて、臨床で用いている段階づけを整理したものです。術式・修復の状態・医師の方針によって、進められる範囲は大きく異なります。
記載したテストは、いずれも術後例での復帰基準として検証されたものではありません。 実施は医師が許可した可動域と荷重の範囲内に限り、痛みや不安感が出る場合は中止してください。
実際の適用にあたっては、主治医および所属施設の方針に従ってください。


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