神経のストレッチ|坐骨神経の滑走でSLRを上げ、皮神経も一緒に伸ばす
SLRの角度を上げたいとき、筋だけでなく神経の動きを見ていますか。神経を滑らせる手技(スライダー)と伸ばす手技(テンショナー)の違い、SLRへの効果を文献で整理し、坐骨神経・大腿神経・上肢の神経ごとの方法と、皮神経を同時に伸ばす皮膚の操作をまとめました。
SLRの角度を上げたいとき、ハムストリングスだけを伸ばしていませんか。
脚を上げると、坐骨神経も引き伸ばされ、滑るように動きます。神経がうまく滑らなければ、筋が伸びる前に止まります。
この記事では、神経を動かす手技を、文献で分かっていることと、臨床での工夫に分けて整理します。臨床での工夫の中心は、神経の幹を滑らせながら、その上を走る皮神経(皮膚に分布する神経)も一緒に伸ばすという考え方です。
着想のもとは、ストレッチトレーナーで理学療法士の兼子ただし先生の「神経系ストレッチ」です。本の紹介では、圧迫されてずれた神経を、つまみながら呼吸することで元に戻す、という考え方が示されています(兼子 2023)。「神経がずれる・戻る」という説明は研究で確かめられたものではないので、この記事では、研究で言える「神経の滑走」と結びつけて読み替えています。
対象読者: 理学療法士など、神経由来の症状や可動域制限を扱う専門職 注意事項: 進行する筋力低下や感覚の脱失、膀胱直腸障害などがある場合は、手技の前に医師の診察を優先してください。
まず押さえる:神経は「滑る」と「伸びる」
関節を動かすと、神経は動く
- 健常者16名の超音波研究で、股関節を曲げた位置から膝を伸ばすと、大腿後面の坐骨神経が平均10〜12mm動きました。股関節を深く曲げた位置(60°)のほうが、浅い位置(30°)より大きく動きました(Ridehalghら 2014)
- 屍体研究では、足首を背屈させてから股関節を曲げると、坐骨神経の張力が足首から先の神経まで伝わりました。神経にかかる力は、動かした関節の近くで最も大きいものの、離れた場所まで伝わります(Coppietersら 2006)
- 腰椎椎間板ヘルニアの20名では、SLR中の脛骨神経の動きが、健常者より小さくなっていました(Toribeら 2025)
滑らせる手技と、伸ばす手技
| スライダー(滑らせる) | テンショナー(伸ばす) | |
|---|---|---|
| やり方 | 片方の端を伸ばしながら、反対の端を緩める | 両方の端を同時に伸ばす |
| 神経の動き | 大きい(手関節部の正中神経で12.6mm) | 小さい(同6.1mm) |
| 神経の伸び(ひずみ) | 小さい(同0.8%) | 大きい(同6.8%) |
数字は屍体研究のものです(Coppieters & Butler 2008)。スライダーは、神経をあまり伸ばさずに大きく動かせます。
SLRは上がるのか
30のRCTをまとめたメタ分析では、神経の手技で、静的ストレッチよりSLRが平均3.5°、何もしない場合より9.4°上がりました。スライダーは、テンショナーよりわずかに優れていました(Bertacchiniら 2026)。ただし、研究の質にはばらつきがあります。
痛みに対しては、40の研究をまとめたシステマティックレビューで、慢性腰痛と、慢性の頸部〜上肢の痛みで改善が示されました。手根管症候群では、臨床的な効果はほとんど認められていません(Bassonら 2017)。
皮神経を一緒に扱う
神経の幹の上には、皮膚に分布する皮神経が走っています。
- 後大腿皮神経は、仙骨神経叢から出て坐骨結節の外側を下り、大腿・殿部・会陰の枝に分かれます(Jiamjunyasiriら 2023)。大腿後面の皮膚に分布するのはこの神経です
- 外側大腿皮神経は、屍体20体の全例で、鼠径靭帯から末梢の枝まで、筋膜でできた管の中を走っていました。位置は、上前腸骨棘の6.5cm内側から6cm外側まで、人によって大きく違いました(Hanna 2017)
【私見】 SLRで坐骨神経を滑らせるとき、後大腿皮神経も同時に伸ばすと、さらに効果が高いと考えています。そのための操作が、大腿後面の皮膚をつまんで引っ張り上げることです。皮神経は皮下と筋膜の層を走るので、皮膚を持ち上げることで、皮神経とその周りの層に張力をかけられる、という考え方です。
【要文献確認】 皮神経を同時に伸ばすとSLRの改善が大きくなる、という研究は、私が調べた範囲では見つかっていません。皮膚の操作は、仮説にもとづく臨床での工夫として扱ってください。
下肢
① 坐骨神経・脛骨神経:SLR
評価の肢位
背臥位で、膝を伸ばしたまま股関節を曲げていきます(SLR)。次の操作を足すと、狙う神経を変えられます。
| 足す操作 | 主に伸ばされる神経 |
|---|---|
| 足首の背屈+外がえし | 脛骨神経 |
| 足首の底屈+内がえし | 総腓骨神経 |
| 足首の背屈+内がえし | 腓腹神経 |
| 頸部の屈曲 | 脊柱管内の神経まで含めて |
脚を下ろしたり首を戻したりして、症状が変わるかを見ます(構造の鑑別)。症状が筋ではなく神経から来ているかを判断する手がかりになります。
スライダー
- 背臥位で、症状が出る手前までSLRをします
- 股関節を曲げる(脚を上げる)ときに足首を底屈させ、下ろすときに背屈させます
- 片方の端を伸ばすときに、反対の端を緩める動きです。痛みのない範囲で、ゆっくり10回ほど
皮神経を同時に伸ばす(私見)
- SLRの途中、抵抗を感じ始める手前で脚を止めます
- 大腿後面の皮膚を、指でつまんで引っ張り上げます
- つまんだまま、ゆっくり呼吸をくり返します(10秒ほど)
- 皮膚を離し、SLRをもう一度行って角度を比べます
テンショナー
スライダーで動きが出てから、症状の落ち着いた方に限って、SLRに足首の背屈を足した形で、両端を同時に伸ばします。神経の伸びが大きいので、症状が残らない範囲にとどめます。
② 腓腹神経・総腓骨神経
SLRに足す足首の操作を変えるだけで、狙えます(上の表)。
無症状の44名で腓腹神経の検査をした研究では、最初に感覚が出たときの股関節屈曲は平均42.5°、我慢できる限界は63.6°でした。感覚は「伸びる感じ」が最も多く、膝の裏と下腿の外側に出ました(Montaner-Cuelloら 2020)。健常者でもこれだけの反応が出るので、左右差と、普段の症状が再現されるかで判断します。
【私見】 腓腹神経を狙うときは、下腿の外側〜外くるぶしの後ろの皮膚をつまむ操作を組み合わせています。
③ 大腿神経・外側大腿皮神経
大腿神経
膝を曲げると、膝より上で終わる大腿神経も動きます。健常者30名の超音波研究で、膝を曲げたときの大腿神経(鼠径部)の動きは、背臥位で平均3.6mm、座位で1.1mmでした。側臥位のスランプ肢位で首を曲げても、長軸方向には動きませんでした(Sierra-Silvestreら 2018)。
大腿神経を動かしたいときは、股関節を伸展した位置(腹臥位や側臥位)で膝を曲げる形が使えます。
外側大腿皮神経(私見)
【私見】 太ももの外側のしびれや、股関節伸展の制限がある方では、股関節を伸展・内転させた位置で、大腿前外側の皮膚をつまんで引き上げる操作を使っています。上のとおり、この神経の位置は人によって大きく違うので、症状の出る場所を本人に指で示してもらってから、その周辺をつまみます。
上肢
| 狙う神経 | 検査の肢位 | 組み合わせる皮神経の候補(私見) |
|---|---|---|
| 正中神経(ULNT1) | 肩甲帯下制、肩外転・外旋、前腕回外、手関節と指の伸展、肘伸展 | 前腕前面の皮膚 |
| 橈骨神経(ULNT2b) | 肩甲帯下制、肩内旋、肘伸展、前腕回内、手関節屈曲・尺屈、母指屈曲 | 橈骨神経浅枝(手首の母指側〜手背) |
| 尺骨神経(ULNT3) | 肩甲帯下制、肩外転・外旋、肘屈曲、前腕回内、手関節と指の伸展 | 前腕内側の皮膚 |
どの検査でも、反対側への頸部の側屈を足すと神経が伸び、同じ側へ側屈すると緩みます。陽性とするのは、普段の症状が少なくとも一部再現され、離れた場所の操作(首の側屈など)で症状が変わるときです(Neeら 2012)。正中神経の検査は、頸部の神経根症を見分けるのに役立つ可能性がある一方、手根管症候群の診断には役立たない、とされています。
健常者でも反応は出ます。尺骨神経の検査(ULNT3)では、57名のうち90%が「伸びる感じ」を訴え、前腕の前内側に出ることが最も多くありました(Martínezら 2014)。
スライダーの例(正中神経)
手関節を伸展させるときに、首を同じ側へ側屈(近位を緩める)、手関節を屈曲させるときに、首を反対側へ側屈(近位を伸ばす)します。
橈骨神経浅枝は、腕橈骨筋の下から、橈骨茎状突起の平均8.3cm近位で皮下に出てきます(Robsonら 2008)。
【私見】 手首の母指側に症状がある方では、ULNT2bの肢位の途中で、この部位の皮膚をつまんで引き上げる操作を組み合わせています。
進め方と注意
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 1 | スライダー:神経をあまり伸ばさずに動かす |
| 2 | 皮神経を同時に伸ばす:検査肢位の途中で皮膚をつまむ(私見) |
| 3 | テンショナー:症状の落ち着いた方に限って |
- 手技のあとに、しびれや痛みが残ったり強まったりしたら、強さか範囲が大きすぎます。次は1段階戻します
- 神経の症状が強い時期は、テンショナーを使わず、スライダーにとどめます
- 進行する筋力低下、広がる感覚障害、膀胱直腸障害がある場合は、手技より先に医師の診察が必要です
【私見】 この段階の組み立ては、私の臨床での進め方です。検証された手順ではありません。
まとめ
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 神経は動く | SLRで坐骨神経は10mm前後動く。力は離れた関節まで伝わる |
| スライダー | 神経をあまり伸ばさずに、大きく動かせる |
| SLRへの効果 | 静的ストレッチより約3.5°上がる(メタ分析) |
| 皮神経 | 神経の幹の上を走る。皮膚をつまんで引き上げ、同時に伸ばす(私見) |
| 進め方 | スライダー → 皮神経 → テンショナー |
参考文献
Basson, A., Olivier, B., Ellis, R., Coppieters, M., Stewart, A., & Mudzi, W. (2017). The effectiveness of neural mobilization for neuromusculoskeletal conditions: a systematic review and meta-analysis. Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy, 47(9), 593–615. doi:10.2519/jospt.2017.7117
Bertacchini, P., Gaucci, M., & Contri, A. (2026). Effectiveness of neurodynamic treatment on hamstring flexibility: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Journal of Back and Musculoskeletal Rehabilitation, 39(5), 1527–1566. doi:10.1177/10538127251372333
Coppieters, M. W., Alshami, A. M., Babri, A. S., Souvlis, T., Kippers, V., & Hodges, P. W. (2006). Strain and excursion of the sciatic, tibial, and plantar nerves during a modified straight leg raising test. Journal of Orthopaedic Research, 24(9), 1883–1889. doi:10.1002/jor.20210
Coppieters, M. W., & Butler, D. S. (2008). Do ‘sliders’ slide and ‘tensioners’ tension? An analysis of neurodynamic techniques and considerations regarding their application. Manual Therapy, 13(3), 213–221. doi:10.1016/j.math.2006.12.008
Hanna, A. (2017). The lateral femoral cutaneous nerve canal. Journal of Neurosurgery, 126(3), 972–978. doi:10.3171/2016.1.JNS152262
Jiamjunyasiri, A., Tsutsumi, M., Muro, S., & Akita, K. (2023). Origin, course, and distribution of the posterior femoral cutaneous nerve and the spatial relationship among its branches. Anatomical Science International, 98(4), 540–547. doi:10.1007/s12565-023-00721-x
Martínez, M. D., Cubas, C. L., & Girbés, E. L. (2014). Ulnar nerve neurodynamic test: study of the normal sensory response in asymptomatic individuals. Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy, 44(6), 450–456. doi:10.2519/jospt.2014.5207
Montaner-Cuello, A., Bueno-Gracia, E., Bueno-Aranzabal, M., Borrella-Andrés, S., López-de-Celis, C., & Malo-Urriés, M. (2020). Normal response to sural neurodynamic test in asymptomatic participants. A cross-sectional study. Musculoskeletal Science and Practice, 50, 102258. doi:10.1016/j.msksp.2020.102258
Nee, R. J., Jull, G. A., Vicenzino, B., & Coppieters, M. W. (2012). The validity of upper-limb neurodynamic tests for detecting peripheral neuropathic pain. Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy, 42(5), 413–424. doi:10.2519/jospt.2012.3988
Ridehalgh, C., Moore, A., & Hough, A. (2014). Normative sciatic nerve excursion during a modified straight leg raise test. Manual Therapy, 19(1), 59–64. doi:10.1016/j.math.2013.07.012
Robson, A. J., See, M. S., & Ellis, H. (2008). Applied anatomy of the superficial branch of the radial nerve. Clinical Anatomy, 21(1), 38–45. doi:10.1002/ca.20576
Sierra-Silvestre, E., Bosello, F., Fernández-Carnero, J., Hoozemans, M. J. M., & Coppieters, M. W. (2018). Femoral nerve excursion with knee and neck movements in supine, sitting and side-lying slump: an in vivo study using ultrasound imaging. Musculoskeletal Science and Practice, 37, 58–63. doi:10.1016/j.msksp.2018.06.007
Toribe, A., Okada, K., Saito, A., Kimoto, M., & Terui, Y. (2025). Dynamics of the tibial nerve during straight leg raise test: a study of individuals with lumbar disc herniation. Journal of Manipulative and Physiological Therapeutics, 48(6–9), 967–976. doi:10.1016/j.jmpt.2025.11.001
兼子ただし. (2023). 10秒で長年の痛みが消える!神経系ストレッチ. 主婦の友社.
注意事項
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、医療行為や診断・治療の代替ではありません。
しびれ・痛み・筋力低下などの神経症状がある方、医師から運動制限を指示されている方は、実施前に必ず医師または理学療法士にご相談ください。実施中に症状が強くなった場合は直ちに中止してください。
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