臨床ノート

ハムストリングス肉離れのトレーニング|膝屈曲+股関節伸展の同時収縮と、シングルデッドリフトの段階づけ

ハムストリングス肉離れのリハビリで使う2種目を、文献をもとに整理しました。腹臥位で膝屈曲に抵抗をかけながら股関節を伸展する種目と、シングルデッドリフト(メディシンボールパスを加える形まで)です。疾走の遊脚後期との関係、膝の角度、段階づけを解説します。

ハムストリングス肉離れのリハビリで、中期から復帰前にかけて使っている2種目を整理します。

  1. 腹臥位で、膝屈曲に抵抗をかけながら股関節を伸展する
  2. シングルデッドリフト(最後はメディシンボールパスを加える)

どちらも狙っているのは、肉離れが最も多い大腿二頭筋長頭と、疾走中にハムストリングスが受ける負荷の形です。

対象読者: 理学療法士・アスレティックトレーナーなど、肉離れのリハビリに携わる専門職 注意事項: 本記事は一般的なプログラム例です。開始時期と負荷は、受傷の程度(画像所見を含む)、痛み、筋力、柔軟性の評価にもとづいて個別に調整してください。


まず押さえる:どこで、いつ切れるか

8割以上が大腿二頭筋

欧州のプロサッカー選手を追った研究では、ハムストリングス肉離れの83%が大腿二頭筋でした。半膜様筋は11%、半腱様筋は5%です。再受傷はすべて大腿二頭筋で起きていました(Ekstrandら 2012)。

255件を分析した別の研究でも、大腿二頭筋が84%を占め、再発率は大腿二頭筋のほうが高い(18%、半膜様筋と半腱様筋をあわせると2%)と報告されています(Ekstrandら 2016)。

疾走の遊脚期に、伸ばされながら力を出している

高速走行のシミュレーション研究では、ハムストリングスは遊脚期(歩行周期の50〜90%)に、負荷を受けながら伸ばされていました。大腿二頭筋にかかる負荷は速度とともに増え、最高速度では立脚期より遊脚期のほうが大きくなりました(Chumanovら 2011)。

遊脚後期起きていること
股関節屈曲位から伸展へ切り返す
膝伸びていく。ハムストリングスがブレーキをかける
ハムストリングス伸ばされながら、股関節伸展と膝屈曲の力を同時に出す

ここから、トレーニングで再現したい条件が2つ出てきます。

  • 股関節伸展と膝屈曲を、同時に出すこと → ① の種目
  • 伸ばされた位置で、負荷に耐えること → ② の種目

2種目の位置づけ

段階目安主な内容この記事の種目
初期歩くと痛む痛みの範囲での等尺性収縮、歩行—
中期日常生活で痛まない等尺性から、求心性・遠心性の筋力強化へ。ジョギング① 腹臥位:膝屈曲+股関節伸展
後期ジョギングで痛まない伸ばされた位置での負荷。加速走② シングルデッドリフト
復帰前全力に近い走りで痛まない体幹・骨盤の制御を加えた動き。競技動作③ ②+メディシンボールパス

【私見】 この段階の分け方と、どこに何を置くかは、私の臨床での組み立てです。検証されたプロトコルではありません。 段階を進めるときに痛みをどこまで許すかは、「痛みなし」と「痛みの限界まで」を比べたRCTの記事を参考にしてください。


① 腹臥位:膝屈曲に抵抗をかけながら股関節伸展

やり方

  1. 腹臥位になります。チューブはベッドの足側に固定し、足首(くるぶしの少し上)に掛けます。チューブは膝を伸ばす方向に引っ張る向きです
  2. 膝を約30°曲げた位置で、チューブに負けないように止めます(膝屈曲の等尺性収縮)
  3. その膝の角度を保ったまま、太ももをベッドからわずかに浮かせます(股関節伸展)
  4. 3〜5秒止めて、10回(回数は目安です)

膝が伸びてきたら、膝屈曲の力が抜けています。チューブを弱くしてください。

根拠:膝屈曲だけより、大腿二頭筋長頭が働く

この形は、Hegyiら(2021)の測定条件とほぼ同じです。

  • 条件: 健常男性21名。腹臥位で、股関節は中間位、膝は30°屈曲。膝屈曲の力は足首の上で、股関節伸展の力は膝裏の上で測りました
  • 比較: 膝屈曲だけの最大等尺性収縮と、膝屈曲に股関節伸展を重ねた最大等尺性収縮
  • 結果: 股関節伸展を重ねると、大腿二頭筋長頭の中央部で筋活動が高くなりました。下腿をどの回旋位に置いても同じでした。半腱様筋で高くなったのは、下腿中間位での最も近位の部分だけでした

著者らは、股関節伸展と膝屈曲の組み合わせを、疾走の遊脚後期に起きている動きとして位置づけています。膝30°も、遊脚後期に近い角度として選ばれています。

種目の選び方の研究とも合います。股関節伸展の種目は長いハムストリングスに入りやすく、ノルディックハムストリングスは半腱様筋に偏りました(Bourneら 2017)。

膝は浅く曲げる

膝を90°近くまで曲げないでください。理由は2つあります。

  • Hegyiらは先行研究をもとに、膝を軽く曲げた位置のほうが、伸ばしきった位置や深く曲げた位置より、ハムストリングス全体の筋活動が高いと述べています。ただし、半腱様筋と半膜様筋は、より深く曲げた位置で最大になったという報告もあります
  • 腹臥位の等尺性収縮を比べた研究では、膝を90°曲げたレッグカールより、膝を伸ばした股関節伸展のほうが、近位部で大腿二頭筋長頭の割合(半腱様筋との比)が高くなりました。一方、膝を伸ばした股関節伸展と、膝30°のレッグカールでは差がありませんでした(Hiroseら 2021)。膝を深く曲げると、大腿二頭筋長頭の割合が下がる可能性があります

【私見】 膝を深く曲げたまま股関節を伸ばすと、ハムストリングスは両端で縮みきった状態になり、つりやすくなります。肉離れが起きる遊脚後期(股関節は曲がり、膝は伸びていく)からも遠くなります。

よくある崩れ

崩れ起きていること・修正
腰が反る骨盤の前傾で代償している。上前腸骨棘をベッドにつけたまま、お腹に軽く力を入れる
太ももが高く上がる腰椎の伸展で上げている。浮かせるのは数cmで十分
膝が伸びていく膝屈曲の力が抜けている。チューブを弱くする
反対側の骨盤が浮く骨盤の回旋で代償している

発展させるなら

【私見】 ベッドの端から骨盤より下を出し、股関節を曲げた位置から伸展させると、ハムストリングスが長い位置で同じ課題を行えます。遊脚後期にさらに近づく形です。ただし、Hegyiらが調べたのは股関節中間位だけで、この形の筋活動は確かめられていません。止めて行う形から、ゆっくり動かす形、速く動かす形の順に進めています。


② シングルデッドリフト

やり方

  1. 患側の脚で立ちます。膝は軽く曲げて固定します
  2. 股関節から上体を前に倒し、反対の脚を後ろへ伸ばします。背中は丸めません
  3. 太ももの裏に伸びを感じるところまで3秒かけて下ろし、戻ります
  4. 重りを持つときは、立っている脚と反対側の手に持ちます
  5. 8〜10回×2〜3セット

根拠

伸ばされた位置で、大きな力がかかる種目です。

  • 20名の筋骨格モデル研究で、両脚のルーマニアンデッドリフトは、大腿二頭筋長頭(体重の1.6倍)と半膜様筋(1.9倍)のピークの力が、ほかのどの種目や走行よりも大きくなりました。全力疾走での大腿二頭筋長頭は体重の1.0倍です。ピークの伸びも、ルーマニアンデッドリフトと片脚ブリッジが最も大きく、ノルディックハムストリングスと片脚のエキセントリックスライダーが最も小さい種目でした(Breedら 2026)
  • ただし、この研究で調べたのは両脚のルーマニアンデッドリフトです。片脚で同じ値になるかは分かりません

伸ばしながら行う種目は、復帰を早めました。

  • サッカー選手75名のRCTで、伸ばされた位置での運動を中心にしたプロトコルは、従来の運動より復帰が早くなりました(平均28日対51日。Asklingら 2013)。その中の「Diver」は、片脚で立って上体を前に倒し、反対の脚を後ろへ伸ばす種目で、シングルデッドリフトに近い動きです

予防でも使われています。

  • 高校の陸上部77名で、ウォームアップに片脚ルーマニアンデッドリフト(3回×3セット)を足したシーズンは、軽度〜中等度の肉離れのリスクが下がりました(リスク比0.34、95%信頼区間0.12〜0.94)。重度は減っていません(Otaniら 2025)
  • 1チームの前後比較で、エビデンスレベルは高くありません。著者らは、ノルディックハムストリングスの代わりではなく、入口として使うことを勧めています

重りは反対側の手に。

  • 12名の研究で、フライホイールを使った片脚ルーマニアンデッドリフトでは、重りを反対側に持つと、中殿筋・大殿筋・脊柱起立筋の活動が高くなりました。大腿二頭筋は、どの条件でも最大随意収縮の70〜120%程度でした(Moら 2023)
  • フライホイールとダンベルで差はなく、著者らはどちらでも反対側で持つことを勧めています

よくある崩れ

崩れ起きていること・修正
背中が丸まる股関節ではなく腰で曲げている。倒す深さを浅くする
上げた脚の側の骨盤が上に開く立っている脚の股関節で、骨盤を回して代償している。両側の上前腸骨棘を床と平行に保つ
立っている脚の膝が内に入る股関節の外転・外旋の制御が足りない。重りを軽くするか、手で支える
下ろす途中で止まる伸びに耐えられていない。痛みがあるなら、その日はその深さで止める

③ メディシンボールパスを加える

なぜ加えるか

体幹の安定化と敏捷性のプログラムを、ストレッチと筋力強化のプログラムと比べたRCTがあります(Sherry & Best 2004、24名)。

体幹安定化・敏捷性ストレッチ・筋力強化
復帰後2週間の再受傷0/13名6/11名
復帰後1年の再受傷1/13名(7.7%)7/10名(70%)
復帰までの日数22.2日37.4日(有意差なし)

ただし、小規模な研究です。体幹安定化・敏捷性のプログラムを、走行と遠心性の筋力強化のプログラムと比べた次のRCTでは、結果に大きな差はなく、再受傷はどちらの群でも少なく抑えられました(29名中4名。Silderら 2013)。体幹や骨盤の制御が、伸ばす種目より優れているとまでは言えません。両方入れると考えるのが妥当です。

注意:不安定にすると、深く倒れにくくなる

健常男性30名が、平らな床とフォームパッドの上でシングルデッドリフトを行った研究があります。不安定な面では、股関節の可動域が約6°、膝が約4°小さくなりました。大腿二頭筋の活動は上がりましたが、著者らは、可動域が減ることで筋力の向上に必要な負荷が落ちる可能性を指摘しています(Kimら 2026)。

ボールパスでも同じことが起きると考えています。そこで、目的を分けます。

種目目的
重りを持って、深く倒すシングルデッドリフト伸ばされた位置で、負荷に耐える
ボールパスを加えたシングルデッドリフト注意が外に向いた状態で、骨盤と体幹を保つ

やり方

  1. パートナーと2〜3m離れます。ボールは1〜2kg
  2. 倒しきった位置で止まり、正面からのパスを受けて返します
  3. 斜めからのパスに進めます。立っている脚の側、反対側の両方から。体幹の回旋が加わります
  4. 倒していく途中でパスを受けます。最後は、投げる方向を直前に指示します

骨盤が開く、立っている脚の膝が内に入る、上体が起き上がる。このどれかが出たら、ひとつ前の段階に戻ります。

【私見】 シングルデッドリフトにメディシンボールパスを加えた形の効果を、直接調べた研究は見つけられていません。試合中は、ボールや相手に注意を向けたまま股関節と骨盤を保つ必要があります。その状況に近づけるための段階として使っています。陸上短距離の選手向けには、こちらの記事で、骨盤の回旋や重りを加えたシングルデッドリフトのバリエーションも挙げています。


まとめ

ポイント内容
どこが切れるか8割以上が大腿二頭筋。再受傷も大腿二頭筋に多い
いつ切れるか疾走の遊脚期。伸ばされながら、股関節伸展と膝屈曲の力を同時に出している
① 腹臥位膝屈曲に抵抗をかけながら股関節伸展。膝は約30°。膝屈曲だけより大腿二頭筋長頭が働く
② シングルデッドリフト伸ばされた位置で大きな力がかかる。重りは反対側の手に
③ ボールパス骨盤・体幹の制御を加える。深く倒す種目とは分けて行う

参考文献

Askling, C. M., Tengvar, M., & Thorstensson, A. (2013). Acute hamstring injuries in Swedish elite football: a prospective randomised controlled clinical trial comparing two rehabilitation protocols. British Journal of Sports Medicine, 47(15), 953–959. doi:10.1136/bjsports-2013-092165

Bourne, M. N., Williams, M. D., Opar, D. A., Al Najjar, A., Kerr, G. K., & Shield, A. J. (2017). Impact of exercise selection on hamstring muscle activation. British Journal of Sports Medicine, 51(13), 1021–1028. doi:10.1136/bjsports-2015-095739

Breed, R., Hulm, S., Hickey, J. T., Timmins, R. G., Opar, D., Banyard, H. G., & Maniar, N. (2026). Hamstring force and stretch during progressively increasing running speeds and the eccentric phase of resistance training exercises commonly used for injury prevention and rehabilitation. British Journal of Sports Medicine, 60(6), 420–428. doi:10.1136/bjsports-2025-110847

Chumanov, E. S., Heiderscheit, B. C., & Thelen, D. G. (2011). Hamstring musculotendon dynamics during stance and swing phases of high-speed running. Medicine & Science in Sports & Exercise, 43(3), 525–532. doi:10.1249/MSS.0b013e3181f23fe8

Ekstrand, J., Healy, J. C., Waldén, M., Lee, J. C., English, B., & Hägglund, M. (2012). Hamstring muscle injuries in professional football: the correlation of MRI findings with return to play. British Journal of Sports Medicine, 46(2), 112–117. doi:10.1136/bjsports-2011-090155

Ekstrand, J., Lee, J. C., & Healy, J. C. (2016). MRI findings and return to play in football: a prospective analysis of 255 hamstring injuries in the UEFA Elite Club Injury Study. British Journal of Sports Medicine, 50(12), 738–743. doi:10.1136/bjsports-2016-095974

Hegyi, A., Csala, D., Kovács, B., Péter, A., Liew, B. X. W., Yue, Y., Finni, T., Tihanyi, J., & Cronin, N. J. (2021). Superimposing hip extension on knee flexion evokes higher activation in biceps femoris than knee flexion alone. Journal of Electromyography and Kinesiology, 58, 102541. doi:10.1016/j.jelekin.2021.102541

Hirose, N., Kagaya, Y., & Tsuruike, M. (2021). The task dependent differences in electromyography activity of hamstring muscles during leg curls and hip extensions. PLoS One, 16(2), e0245838. doi:10.1371/journal.pone.0245838

Kim, J., Jeon, Y., & Eom, K. (2026). Biomechanical analysis of single leg deadlift under the effect of instability. Scientific Reports, 16, 27481. doi:10.1038/s41598-026-56871-1

Mo, R. C. Y., Ngai, D. C. W., Ng, C. C. M., Sin, K. H. S., Luk, J. T. C., & Ho, I. M. K. (2023). Effects of loading positions on the activation of trunk and hip muscles during flywheel and dumbbell single-leg Romanian deadlift exercises. Frontiers in Physiology, 14, 1264604. doi:10.3389/fphys.2023.1264604

Otani, R., Nishikawa, H., Matsunaga, S., Hiroshige, Y., & Nakamura, M. (2025). The effect of single leg Romanian deadlift on the risk of hamstring strain injuries in track and field athletes: a cohort study. International Journal of Sports Physical Therapy, 20(5), 657–665. doi:10.26603/001c.136803

Sherry, M. A., & Best, T. M. (2004). A comparison of 2 rehabilitation programs in the treatment of acute hamstring strains. Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy, 34(3), 116–125. doi:10.2519/jospt.2004.34.3.116

Silder, A., Sherry, M. A., Sanfilippo, J., Tuite, M. J., Hetzel, S. J., & Heiderscheit, B. C. (2013). Clinical and morphological changes following 2 rehabilitation programs for acute hamstring strain injuries: a randomized clinical trial. Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy, 43(5), 284–299. doi:10.2519/jospt.2013.4452


注意事項

本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、医療行為や診断・治療の代替ではありません。

痛み・しびれ・炎症・外傷などの症状がある方、医師から運動制限を指示されている方は、実施前に必ず医師または理学療法士にご相談ください。実施中に体調の異変を感じた場合は直ちに中止し、医療機関を受診してください。


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