スプリント動作のキームーブメント|ヒップロック・足関節の固定・フロントサイドに、骨盤と体幹の回旋を加えた5つ
スプリント動作の3つのキームーブメント(ヒップロック、足関節の固定、フロントサイド)に、体幹と骨盤の回旋を加えた5つを整理しました。遊脚中期の体幹の回旋と、遊脚初期の骨盤の急速な回旋について、研究での裏づけと評価・ドリルを解説します。
スプリント動作のキームーブメントとして、一般には次の3つがよく挙げられます。
- ヒップロック
- 足関節の固定(ankle stiffness)
- フロントサイドメカニクス
ただ、臨床で選手を見ていると、これだけでは説明しきれない動きがあります。私は、さらに次の2つを見ています。
- 右遊脚中期の体幹の回旋(骨盤に対して)
- 右遊脚初期(左遊脚終期)の、骨盤の急速な左回旋
この記事では、5つそれぞれについて、研究でどこまで言えるかと、評価・ドリルを整理します。④⑤は右脚を基準に書いていますが、左右を入れ替えれば反対側も同じです。
対象読者: 理学療法士・アスレティックトレーナー・陸上競技の指導者など、スプリント動作の評価と改善に携わる専門職
全体像
| 動き | 局面 | 見るところ | ドリル | |
|---|---|---|---|---|
| ① | ヒップロック | 支持期 | 支持脚の骨盤が崩れないか | 片脚でのヒップロック保持(私見) |
| ② | 足関節の固定 | 接地〜支持期 | 足首が潰れないか | ウォールドリル |
| ③ | フロントサイドメカニクス | 遊脚期 | 脚の動きが体の前で起きているか | 両膝立ちからの振り出し(壁で高さを比べる) |
| ④ | 体幹の回旋 | 右遊脚中期 | 体幹が骨盤に対して右へ回っているか | 片膝立ちでの腕振り(私見) |
| ⑤ | 骨盤の急速な左回旋 | 右遊脚初期 | 右の蹴り出し直後に、骨盤がすばやく左へ回るか | まだ確立していない |
① ヒップロック:支持脚の骨盤の安定
支持期に、支持脚の上で骨盤が崩れない状態を指します。支持脚の股関節で骨盤を支えきれないと、遊脚側の骨盤が落ちたり、骨盤が支持脚側へ流れたりします。
「ヒップロック」は現場の言葉で、この名前で調べた研究は見当たりません。ただ、骨盤の動きが変えられることは示されています。
- 腰椎骨盤の制御とフロントサイドを意識した走技術のドリルを組み合わせた6週間の介入で、最大速度での骨盤と大腿の動きが変わり、スプリントのタイムも改善しました。遊脚後期の骨盤の前傾が小さくなり、遊脚初期の遊脚側への骨盤の傾き(obliquity)が大きくなっています(Mendiguchiaら 2022)
- 最大速度のスプリントでは、女性の選手は男性より、支持期に骨盤が遊脚側へ大きく側屈していました(Otaら 2025)
評価
前方または後方から動画を撮り、支持期に遊脚側の骨盤が下がっていないか、骨盤が支持脚側へ流れていないかを見ます。
ドリル
【私見】 次のドリルから始めています。
- 片脚で立ち、反対の太ももを水平まで上げます(つま先は上へ向ける)
- 支持脚の股関節で骨盤を水平に保ち、5秒止めます。左右5回ずつ
- 慣れたら、その姿勢を保ったまま、太ももの上げ下ろしをすばやく行います
支持脚の股関節を固定したまま体幹を動かす「Hip lock+ウォーターバッグ ウッドチョップ」へ進めることもあります。
② 足関節の固定(ankle stiffness)
接地の瞬間から支持期にかけて、足首が潰れずに、ばねのように力を返すことです。
研究での裏づけ
- 冬期の6か月のトレーニングで最大速度が上がった9名では、足関節の硬さ(スティフネス)が高くなっていました。膝の硬さは変わっていません。足首の底屈モーメントが増え、背屈の角度が小さくなったためです(Nagahara & Zushi 2017)
- 短距離選手10名が速度を70〜100%に上げていった研究では、足関節の硬さは速度によらずほぼ一定で、膝の硬さが速度とともに高くなりました。著者らは、足関節の硬さはアキレス腱の硬さに支えられているためだと考えています(Kuitunenら 2002)
つまり、足首は「速度に合わせて変える」より、「最初から硬く保つ」部分だと読めます。
ドリル:ウォールドリル
- 壁に両手をつき、体を前に傾けます
- 片脚の太ももを上げ、足首は背屈させたままにします
- 上げた脚を下ろし、反対の脚を上げる、の入れ替えを行います。1回ずつ → 2回連続 → 3回連続と増やします
- 接地は股関節の真下で、踵を落とさず、足首で潰れないようにします
③ フロントサイドメカニクス
脚の動きを、体幹を延長した線より前で起こすことです(Haugenら 2018 の定義)。後ろへ脚が流れる動き(バックサイドメカニクス)を小さくし、太ももをすばやく前へ戻します。
研究での裏づけは、割れています。
| 研究 | 結果 |
|---|---|
| Haugenら(2018) | 競技者24名。最大速度とフロントサイドの指標には関連がなく、「重要とは言えない」と結論。加速局面では関連はあったが、向きが理論と逆だった |
| Mendiguchiaら(2022) | フロントサイドを意識したドリルを含む6週間の介入で、前の脚の膝の位置が高くなり、太ももを振る速さが上がり、タイムも改善した |
| Altら(2024) | 男性の短距離選手21名。速い選手ほど、太ももを振る動きが速く、ハムストリングスのエキセントリック筋力も高かった |
「フロントサイドの姿勢を作れば速くなる」とまでは言えません。一方で、太ももをすばやく前へ戻す能力は速さと関連しています。ドリルは、この能力の左右差を見つけて整えるために使います。
ドリル:両膝立ちからの振り出し
- 壁の前で両膝立ちになります
- 片脚を前へ振り出し、足の裏を壁に着けます
- 着いた高さを、左右で比べます
どちらの脚が高く上がるかで、太ももを前へ戻す動きの左右差が分かります。比べるときは、毎回同じ位置(床に印を付ける)で行ってください。
④ 右遊脚中期の体幹の回旋
右の遊脚中期は、左脚の支持期にあたります。このとき体幹は、骨盤に対して右へ回旋します。
研究での裏づけ
日本の男子短距離選手12名の加速局面(60m走のスタートから約25歩)を、モーションキャプチャで調べた研究があります(Nagaharaら 2014、2018)。
① 胸郭と骨盤は、同じ向きに回る
胸郭と骨盤は、逆向きではなく同じタイミングで同じ向きに回旋し、胸郭がわずかに先行していました(Nagaharaら 2014)。ただし、回る量は胸郭のほうが大きくなります。
| 接地の瞬間 | 離地の瞬間 | |
|---|---|---|
| 胸郭 | 支持脚側が約12°後ろ | 支持脚側が約12°前 |
| 骨盤 | 支持脚側が約10°後ろ | ほぼ正面 |
| 胸郭と骨盤の差(体幹のねじれ) | ほぼ0° | 支持脚側の胸郭が、骨盤より約12°前 |
数字は論文の図から読み取ったおおよその値です。左の支持期(=右の遊脚中期)では、支持脚側の左の胸郭が骨盤より前に出るので、体幹は骨盤に対して右へ回ります。骨盤が逆へ動くからではなく、同じ向きに回る中で、胸郭のほうが大きく先に回るためです。
② 速く加速できる選手は、胸郭の回旋を「遅らせて」いた
加速を3つの区間に分け、接地・離地の瞬間の角度と、速度の伸びとの相関を見ています(Nagaharaら 2014)。
| 区間 | 速度の伸びと関連したもの |
|---|---|
| 1〜4歩 | 回旋に有意なものなし |
| 4〜15歩 | 胸郭の回旋を遅らせること(支持脚側の胸郭が、接地でも離地でも前に出すぎていない) |
| 15〜25歩 | 回旋は関連なし。体幹の側屈が小さいこと(左右へのぶれを抑える) |
同じデータを雑誌に載せた版では、加速の後半で体幹のねじれが小さいほうが速度の伸びと関連したと要約されています(Nagaharaら 2018)。ただし、全文を確認できた学会版の図では、後半の回旋は有意になっていません。分析のしかたが変わった可能性がありますが、確かめられていません。
どちらの版でも、ねじれは大きければよい、というものではありません。また、この研究は12名と少なく、角度だけを測ったもので、トルクは測っていません。
【私見】 見ているのは、ねじれの大きさではなく向きです。右の遊脚中期に、体幹が骨盤に対して右へ回らず、骨盤と一緒に固まって回る選手では、骨盤や体幹が左右に振られやすいと考えています。一方で、研究では胸郭の回旋を遅らせるほうが加速に有利だったので、早く大きく回すことを求めているわけではありません。
また、動きは小さく、ねじる力は強い状態がよいのではないか、と考えています。腰仙部で遊脚側へねじるトルクが小さいと、脚の戻りが遅れる可能性を示した研究(Otaら 2025、⑤で紹介)と、足関節を硬く保つ②の考え方とも重なります。ただし、角度とトルクを同時に調べた研究は見つけられておらず、仮説です。
評価(私見)
前方から動画を撮り、右遊脚中期に両肩を結ぶ線が、骨盤の線に対して右へ回っているかを見ます。
ドリル(私見)
片膝立ちで骨盤を正面に向けたまま、腕振りを行います。骨盤を動かさずに、胸郭だけを左右へ回す練習です。腕振りの改善については、陸上短距離のアスレティックリハビリの記事にもまとめています。
⑤ 右遊脚初期(左遊脚終期)の、骨盤の急速な左回旋
右脚が地面を離れた直後、骨盤がすばやく左へ回旋し、右の股関節を前へ運びます。これが遅れると、右の太ももが前へ戻るのが遅れます。
研究での裏づけ
最大速度のスプリントでは、女性の選手は男性より、腰仙部で遊脚側へねじるトルクが小さく、ピッチが低くなっていました。著者らは、このねじるトルクの小ささが、蹴り出し後の脚の戻りの遅れにつながり、ピッチを下げている可能性を指摘しています(Otaら 2025)。
【私見】 ⑤は、③のフロントサイドの前提になる動きだと考えています。骨盤が先に回って股関節が前へ運ばれるから、太ももを前へすばやく戻せる、という順番です。
評価とドリルは、まだ確立した方法を持っていません。 局面が短く、骨盤の回旋は側方からの動画では股関節の動きと見分けにくいためです。今後の課題として、分かったことがあれば追記します。
5つのつながり(右脚を基準に)
| 局面 | 右脚 | 左脚 | 関わる動き |
|---|---|---|---|
| 右の接地〜支持期 | 支持脚 | 遊脚 | ① 右の骨盤の安定、② 右の足首の固定 |
| 右の蹴り出し直後 | 遊脚初期 | 遊脚終期 | ⑤ 骨盤の急速な左回旋 |
| 右の遊脚中期 | 遊脚中期 | 支持脚 | ③ 右の太ももを前へ戻す、④ 体幹の右回旋 |
③は、⑤で骨盤が先に回っているからこそ成立します。その間、④で体幹は骨盤に対して右へ回ります。
【私見】 この5つの組み立て(特に④と⑤を加えること)は、私の臨床での見方です。検証された枠組みではありません。
まとめ
| 動き | 研究での裏づけ | ドリル |
|---|---|---|
| ① ヒップロック | 名前での研究はないが、骨盤の動きは介入で変わりうる | 片脚でのヒップロック保持(私見) |
| ② 足関節の固定 | 最大速度が上がった選手で、足関節の硬さが上がっていた | ウォールドリル |
| ③ フロントサイド | 割れている。ただし太ももを戻す速さは速さと関連 | 両膝立ちからの振り出しで、左右差を見る |
| ④ 体幹の回旋 | 胸郭と骨盤は同じ向きに回り、胸郭が大きい。胸郭の回旋を遅らせる選手ほど加速できていた | 片膝立ちでの腕振り(私見) |
| ⑤ 骨盤の急速な回旋 | 遊脚側へのねじるトルクが小さいと、脚の戻りが遅れる可能性 | まだ確立していない |
参考文献
Alt, T., Komnik, I., Ryan, L. J., & Clark, K. P. (2024). Top speed sprinting: thigh angular motion and eccentric hamstring strength in faster vs. slower sprinters. Human Movement Science, 98, 103280. doi:10.1016/j.humov.2024.103280
Haugen, T., Danielsen, J., Alnes, L. O., McGhie, D., Sandbakk, Ø., & Ettema, G. (2018). On the importance of “front-side mechanics” in athletics sprinting. International Journal of Sports Physiology and Performance, 13(4), 420–427. doi:10.1123/ijspp.2016-0812
Kuitunen, S., Komi, P. V., & Kyröläinen, H. (2002). Knee and ankle joint stiffness in sprint running. Medicine & Science in Sports & Exercise, 34(1), 166–173. doi:10.1097/00005768-200201000-00025
Mendiguchia, J., Castaño-Zambudio, A., Jiménez-Reyes, P., Morin, J. B., Edouard, P., Conceição, F., Tawiah-Dodoo, J., & Colyer, S. L. (2022). Can we modify maximal speed running posture? Implications for performance and hamstring injury management. International Journal of Sports Physiology and Performance, 17(3), 374–383. doi:10.1123/ijspp.2021-0107
Nagahara, R., Matsubayashi, T., Matsuo, A., & Zushi, K. (2014). Kinematics of thorax and pelvis during maximal accelerated sprinting. In Proceedings of the 32nd International Conference on Biomechanics in Sports (pp. 381–384). International Society of Biomechanics in Sports. https://ojs.ub.uni-konstanz.de/cpa/article/view/6065
Nagahara, R., Matsubayashi, T., Matsuo, A., & Zushi, K. (2018). Kinematics of the thorax and pelvis during accelerated sprinting. The Journal of Sports Medicine and Physical Fitness, 58(9), 1253–1263. doi:10.23736/S0022-4707.17.07137-7
Nagahara, R., & Zushi, K. (2017). Development of maximal speed sprinting performance with changes in vertical, leg and joint stiffness. The Journal of Sports Medicine and Physical Fitness, 57(12), 1572–1578. doi:10.23736/S0022-4707.16.06622-6
Ota, K., Yoshida, T., Maemura, H., & Tanigawa, S. (2025). Gender differences in three-dimensional pelvic behavior during maximal sprint running. The Journal of Sports Medicine and Physical Fitness, 65(7), 873–882. doi:10.23736/S0022-4707.25.16415-3
注意事項
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、医療行為や診断・治療の代替ではありません。
痛みやけがのある方、医師から運動制限を指示されている方は、実施前に必ず医師または理学療法士にご相談ください。
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