「やりたいことがない」と言われたら|後輩・スタッフとの面談で、私がしていること
面談で「特にやりたいことはありません」と言われたとき、どうするか。相手に興味を持ち、週末にやりたいことから話を広げ、お金が欲しいならグレードを上げる道を具体的に示す。理学療法士として後輩やスタッフと関わる中で、私がしていることを、キャリアと動機づけの理論とあわせてまとめました。
後輩やスタッフと面談をしていると、ときどきこう言われます。
「特に、やりたいことはないです」
目標を書いてもらう面談で、これを言われると、こちらも困ってしまいます。ここでは、そんなときに私がしていることをまとめます。
結論から書くと、やっていることは3つです。
- 相手に興味を持つ
- 仕事の外の「やりたいこと」から話を始める
- お金が欲しいなら、グレードを上げる道を具体的に示す
「やりたいことがない」は、珍しくない
まず、前提として持っておきたいことがあります。やりたいことがはっきりしていない人は、珍しくありません。
キャリアの研究には、「計画的偶発性」という考え方があります。人のキャリアの多くは、事前の計画どおりではなく、予定していなかった出来事によって形づくられる、というものです(Mitchellら 1999、Krumboltz 2009)。
この考え方では、偶然の出来事をキャリアに活かすために、次の5つが大事だとされています(Mitchellら 1999)。
| 中身 | |
|---|---|
| 好奇心 | 新しいことに目を向ける |
| 持続性 | うまくいかなくても続ける |
| 柔軟性 | 状況に合わせて考えを変える |
| 楽観性 | 新しい機会を「できる」「役に立つ」と捉える |
| 冒険心 | 結果が分からなくても動いてみる |
つまり、最初から明確な目標がなくても大丈夫です。目標を無理に書かせるより、動き出すきっかけを一緒に探すほうが、面談としては実りがあると考えています。
① 相手に興味を持つ
「やりたいことがない」と言われたら、私はまず、相手そのものに興味を持ちます。
生きているのだから、週末にやりたいことは、きっとあるはずです。
- 休みの日は、何をしていますか
- 最近、楽しかったことは何ですか
- お金や時間があったら、何をしたいですか
仕事の目標の話を、いったん横に置きます。仕事の外の話なら、答えやすくなります。
動機づけの研究では、人には自律性(自分で選びたい)・有能感(できると感じたい)・関係性(人とつながっていたい)の3つの欲求があり、これが満たされると、外から与えられた目標も自分のものとして取り込みやすくなる、とされています(Ryan & Deci 2000)。
相手に興味を持って話を聞くことは、この「関係性」をつくることでもあります。「この人は、自分のことを見てくれている」と感じてもらえれば、その後の話が入りやすくなります。
② 仕事の外の「やりたいこと」から話を始める
週末にやりたいことが出てきたら、そこから話を広げます。
【私見】 たとえば、次のように仕事とのつながりを一緒に考えます。
出てきた話 つながりの例 旅行に行きたい お金と休み。収入を上げる道や、休みの取り方の話へ スポーツが好き スポーツ現場に関わる仕事、勉強会への参加 家族との時間を大事にしたい 仕事を効率よく終わらせる工夫、残業しない働き方 大事なのは、こちらの考える目標に誘導しないことです。相手の口から出てきたことを起点にします。
③ お金が欲しいなら、グレードを上げる
週末にやりたいことを聞いていくと、「お金が欲しい」という話になることがよくあります。
そのときは、グレード(等級)を上げていったほうがいいと、はっきりアドバイスします。
職場の等級の仕組みの中で、次のグレードに上がるには何が必要か。それを一緒に確認して、具体的にやることに落とし込みます。
「お金のために働くのは、よくない」とは言いません。
先ほどの動機づけの研究では、お金や評価のような外からの動機も、本人がその価値を認めて取り込めば、自分で選んだ動機として働くとされています(Ryan & Deci 2000)。「お金が欲しい」は、立派な出発点です。
【私見】 グレードを上げるために勉強したり、役割を引き受けたりしているうちに、仕事そのものの面白さに気づく人もいます。理学療法士の仕事は、勉強した分だけ患者さんが良くなるのが魅力です(理学療法士の良い点と悪い点にも書きました)。お金を入り口にして、そこにたどり着いてもらえれば十分だと考えています。
まとめ
| 場面 | していること |
|---|---|
| 「やりたいことがない」と言われた | 珍しいことではない、と受け止める。目標を無理に書かせない |
| まず | 相手に興味を持つ。週末にやりたいことを聞く |
| 次に | 仕事の外の「やりたいこと」から、仕事とのつながりを一緒に考える |
| 「お金が欲しい」が出たら | グレードを上げる道を具体的に示す |
やりたいことがない人に、やりたいことを無理に作らせる必要はありません。相手に興味を持って話を聞けば、動き出すきっかけは、たいてい相手の中にあります。
参考文献
Krumboltz, J. D. (2009). The happenstance learning theory. Journal of Career Assessment, 17(2), 135–154. doi:10.1177/1069072708328861
Mitchell, K. E., Levin, A. S., & Krumboltz, J. D. (1999). Planned happenstance: constructing unexpected career opportunities. Journal of Counseling & Development, 77(2), 115–124. doi:10.1002/j.1556-6676.1999.tb02431.x
Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2000). Self-determination theory and the facilitation of intrinsic motivation, social development, and well-being. American Psychologist, 55(1), 68–78. doi:10.1037/0003-066X.55.1.68
関連記事
- 実習生の指導で考えたこと →「理学療法士の臨床実習指導|成功体験は偶然ではなく設計できる」
- 理学療法士という仕事 →「理学療法士の良い点と悪い点|現役PTが感じている9つのメリットと3つのデメリット」